005
ハジメさんがチームから離脱してからの数日間、チーム内は険悪なムードに包まれてしまう。
チームイチのムードメーカだった弥生ちゃんは悲しみに打ちひしがれているし、チームメートは不機嫌そのもだし、だからといってハジメさんの行方不明に成す術もない
。近場の病院を回って【土倉肇】という患者はいませんか? と探してみたんだけど、結果は空回りに終わった。
頭脳派不良がいなくなった悲しみは底知れなかったんだ。チーム随一の頭脳派がいなくなったから、というより彼の存在がチームにいないことがショックでならなかった。チームメートの前にハジメさんは大事なトモダチ。ひとりでもチームから欠けてしまうと、心にぽっかり穴があいた気分に陥った。
殆ど会話がない中、私は弥生ちゃんを元気付けられないことに落ち込み、自分の無力感に溜息をつくばかりだった。
無理に元気を出せなんて彼女には言わないけれど、傍にいてあげることが果たして支えになっているのか…、疑問を抱いてしまう。
せめて弥生ちゃんにあったかい飲み物を。
私は弥生ちゃんを響子さんに任せ、倉庫裏のたむろ場から抜け出すと、近場のスーパーではなく、目と鼻の先にある自販機に赴いた。ホット紅茶を買おうか、それともホット珈琲を買おうか、うんぬん迷っていると背後から肩を叩かれる。
びっくりしてお財布を落としそうになった。しっかりそれを握り締めて、ぎこちなく振り返る。
「駄目じゃないか」ひとりで外を出歩いたら、腰に手を当てて仁王立ちしている人物はそう私に注意を促した。ケイさんだ。
「ハジメがあんな目に遭った後だ。極力一人でうろつくなってヨウに言われてるだろ?」
彼に言われて私はそんな注意もあったなぁっと他人事のように思い出す。
ケイさんは私の抜け出す姿を見つけ、慌てて追い駆けて来てくれたに違いない。「ごめんなさい」素直に謝罪すると、「ったくもう」心配掛けさせるなって、ケイさんは大袈裟に肩を竦めた。
そして早く買うものを買ってしまうよう催促する。
私はどちらにしようかと自販機に目を向けて、食指を左右に動かす。その体勢のまま私はケイさんに話しかけた。なんとなく会話が欲しかったんだ。
「ハジメさん。何処に行ってしまったんでしょう?」
問い掛けに、ケイさんは間を置いて分からないと返答した。
近場の病院は探し回ったけれど姿かたち情報すら集まらない。正直お手上げ状態だと彼は吐息をついた。「戻ってきますよね?」重ねて問い掛けると、ケイさんは即答で「絶対戻ってくる」と返した。それはそれは強い返事だった。
「だってあいつ、チームが大好きだったんだ。そりゃ手腕なんてないけど、あいつはチームが大好きで、自分の意思で此処にいた。弥生のこともある。あいつは傷付けられても、あんなにボロボロでも自分の足で戻ってきたんだ。きっと帰ってくるよ」
綻ぶケイさんは、「そう信じたいだろ?」と付け加える。
同じ表情を返す私は相槌を打ち、ボタンを押してホット珈琲を買った。取り出し口から缶を取ると、「ケイさんは強いですね」振り返って一笑する。こんなことがあった後なのに、毅然と私を励ましてくれるなんて“強い”しか言いようがない。
「ご冗談を」ケイさんは苦笑いを零し、自分に言い聞かせている台詞を私にぶつけただけだと告げた。
そうでもしないと重苦しい現実に圧死されそうだとケイさん、「俺は強くなんてないさ」強く見えるなら見栄張っている証拠だと彼は言う。
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