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003



 どこに行くのか見当もつかない。

 果敢無い背中を見送っていると、「ごめんココロ」弥生を頼むな、背後から声を掛けられた。首を捻ると、開いた傘をわざわざ畳んでいるケイさんの姿。弥生ちゃんの傍にいるよう指示を促すケイさんは、やや腫れた目を和らげ、傘を閉じたまま駆け出す。
 向かうはヨウさんの下。「待ってくれよ」俺を置いていくなんて酷いぜ、声音を張るケイさんはヨウさんと肩を並べていた。向こう側では力なく笑っているヨウさんの姿が。

「お前。カッコ良かったよ。惚れそうだった。このイケメンめ」

 ハジメさんのご両親に放った言の葉達を褒める彼は、舎兄の横腹を軽く肘で小突く。
 「ならいいんだけどな」微かに聞こえる会話を最後に、二人は降り頻る暗い雨の中に消えてしまう。

「……、ヨウさん、思いつめてるな」

 モトさんがポツリと零す。
 「大丈夫か?」キヨタさんの気遣いに自分は大丈夫だとモトさんは答を返す。それより心配なのは、物言いたげな表情を作るモトさんはケイに託すしかないと吐息をついていた。嫉妬心は垣間見えない。純粋に彼はケイさんに兄分を任せているみたいだ。
 成長したなぁっと思う。少し前のモトさんならムキになって張り合うところだろうに。
 
 私は弥生ちゃんに、「明日。一緒にお見舞いに行こう」と声を掛けた。
 きっと明日には会えるから。弥生ちゃんにそう励ますと、何度も彼女は頷いて私の言葉を受け入れてくれた。というより返事でいっぱいいっぱいなんだと思う。本当は聞き流しているのかも。それも仕方がないことだ。ハジメさんがあんな目に遭ったのだから。
 「うちも明日、一緒に行ってやっから」響子さんの励ましも首肯で返し、私達は弥生ちゃんと一緒に帰路を歩く。そしてその日、私達は響子さんの家で一夜を明かした。

 

 翌日のこと。

 昼前に私達は病院を訪れた。
 もう意識は戻っているだろうか、どれほどの重傷なのだろうか、しきりにハジメさんの心配をする弥生ちゃんは腫れぼったい目をしばしばさせ、目が覚めていることを切望している。大丈夫だと言葉を掛けながら、受付カウンターを訪れた私は弥生ちゃんに代わってハジメさんの病室を尋ねた。
 昨晩は何処の病室に居るのかさえ教えてもらえる機会がなかったから、今日初めてハジメさんの病室を知ることになる。

 と、思っていたのだけれど返ってきた答えに私も響子さんも弥生ちゃんも愕然。
 看護師さん、「土倉肇さんはこの病院にはいません」って答えたんだ。え、じゃあ、何処に。慌てふためく響子さんが昨日確かにハジメさんが運ばれたのだと旨を伝える。すると別の看護師さんが他の病院に移されたのだと答えた。
 
 だったら病院を教えてもらおう。
 そう思って聞いたんだけど、誰も何も答えてはくれなかった。なんで教えてくれないのか、不思議でいっぱいだった私達は渋々受付カウンターを去る。何度聞いても教えてくれないから埒が明かなかったんだ。あからさま迷惑そうな面持ちをされたら、去るしか方法はない。

 「どうして」鼻を啜る弥生ちゃんが打ちひしがれたように涙ぐむ。
 「個人情報だからばっかりだったな」響子さんは舌を鳴らし、教えてくれなかった看護師達に憤りを見せていた。


「ハジメの顔。見たいだけなのに」

「弥生…、とにかく今は落ち着こうぜ。全員揃って動揺してもどうしょうもねぇよ。トイレで洗顔しようぜ。な?」
  




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あきゅろす。
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