002
これは待合室での出来事。
看護師さんから注意を受けたんだけど、向こうのご両親はモンスターペアレントみたいで律に則(のっと)って訴えてやると癇癪を起こしていた。それに恐怖心は出てこなかったんだけど、私はすこぶる困惑してしまった。
だって大人とこんな風に対峙したことなかったんだから。
「君と出会わなければ」息子は駄目にならなかった。
ハジメさんの両親は、特にハジメさんを不良に引き込んだヨウさんを責めて立てていた。けれども顔色ひとつ変えないヨウさんは、「だったら俺はアンタ達に感謝するさ」だってアンタ達があいつを追い詰めたおかげで、俺はハジメと出会えたんだからと喝破。
「どんだけあいつがテメェ等の理想で苦しめられていたか知ってっか? 知らねぇだろ?! ハジメは生きた人形も同然なんざ吐いていたんだからな!」
偽善な親面しやがってッ…。
ハジメに自分達の理想を押し付けて、あいつを散々苦しめていたくせに、テメェ等があいつの何を知ってるんだ! あいつがどんだけ苦しんでたと思うっ。あいつの素さえ見なかったテメェ等なんざ、ちっとも怖かねぇよ。訴える? いいぜ、訴えろよ。受けて立ってやる。
テメェ等がどう言おうと、俺等の繋がりは俺等にしか断ち切ることができねぇ。エリート弁護士様じゃ一生掛かっても無理だ。絶対に。
寧ろ俺はテメェ等のような親を持ったハジメを同情しちまうぜ。
さっさと手前の理想なんざ捨てて、ガキの素を見るようプライドなんざ捨てろよ。ハジメは俺等の仲間。あいつが俺等を呼べば、俺等は何度でもあいつの前に現れる。大事な仲間だから。
「弁護士だかなんだか知らないがな、ハジメの気持ちをこれっぽっちも知らないテメェ等よりかはあいつのことを知っている自信あるぜ。どーせ怪我の連絡がなきゃ息子を放って仕事に熱中していたんだろ? そういう大人だよ、テメェ等は」
胸糞悪いとヨウさんは鼻を鳴らし、踵返して私達に声を掛けて来た道を歩き出した。
会わせてもらえないと判断したみたい。泣いている弥生ちゃんに、「今日は諦めようぜ」ヨウさんは慰めの言葉を掛けていた。うんっと頷く弥生ちゃんは理解を示していたけれど、大人との対峙がまた涙を誘ったみたい。ボロボロ泣いてハンカチを握り締めていた。
私は弥生ちゃんの側に寄り添うことしかできなかった。
病院を出るとヨウさんは私達に解散だけ放って、一人どこかに歩き出す。
それこそ傘も差さず。折角着替えたのに、また服が雨に濡れ始めた。
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