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『ちょっ、待って下さい!』


 まともに喋ったこともない俺を追い駆けて来たケイは、俺と和彦さん達の関係を見かねて。
 んでもって、自分の過去と照らし合わせて、


『蓮さん、ちょっと俺にナンパされて下さい』


 追い駆けて来てくれたんだ。
 まさか街のど真ん中で野郎にナンパされるなんて思いもしなかったけど、あの時の俺は追い駆けて来てくれたケイになんか惹かれるものを感じた。
 喋ったこともない俺のために走ってきてくれたケイ、そして俺の話を聞いて、和彦さん達から逃げている背中を引きとめてくれた俺と同じ舎弟。

 俺はケイみたいな真面目地味くんとは気が合わないとばかり思っていたけど。


「ケイは今のままでいいよ。俺が保証してやるから。なんなら今から、俺の弟分になるか?」


 こうして気が合っている―――…。


 俺はケイとの出逢いに感謝したい。

 こいつとの出逢いで、忘れていた自分の気持ちや勇気、和彦さん達と過ごした日常の輝きを思い出すことができた。

  
 俺の申し出に、ケイは笑声を漏らした。
 「俺ってメンドクサイですよ」地味のわりにはお高めですし、と、まあまあ調子ノリな発言をしてくる。「幾らでも出して買ってやらぁ」ノリ良く返せば、「まあ素敵」ケイが男前と茶化してきた。


「だけど俺が蓮さんの弟分になったら、俺の兄貴と弟分がなんて言うか。特に弟分が…、俺を買うなら俺の弟分も買ってやって下さい」

「オーケー。おつりが出る勢いで買ってやる。どうせ千円程度だろ? お前等」

「うっわ! なんてお高い…、とか言うわけないでしょ! 安っ! 蓮さんの俺に対する友愛が安い!」

「バッカ。学生だぞ? 俺。万円も払えるわけないだろうよ」


 馬鹿馬鹿しいノリを交して俺達は笑い合う。
 

 なあ、ケイ。
 お互いに舎弟で各々悩みを抱いている毎日みたいだから、また二人でこっそり二人旅しないか? 今日みたいな楽しい気持ちに、お前とならなれると思うんだ。舎弟同士だからこそ、似た境遇に立たされた俺達だからこそ、意味のある二人旅ができそう。
 
 俺の言葉にケイは二つ返事で快諾。
 「蓮さんと俺の秘密ですね」この旅に対して人差し指を立たせ、口元に当てるケイ。
 
 ああ、秘密な。
 舎弟にも仲間達にも秘密な、俺達だけの二人旅だ。

 また舎弟の事でお互いに悩みを抱えたら、チームに赴きたくない気持ちに駆られたら、どっか遠くに行きたくなったら俺はお前を誘おうと思うよ。



 ―…ケイ。
 
 遠くから聞こえる海の小波が、やけに心地良いな。



>>Next year Kei&Ren





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