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009


 

「そういえば蓮さんって、喧嘩強いですよね? なんか習い事してました?」

「んー? 小6まで少林寺拳法ってヤツ、習わされていたんだ。なんで?」

「いやぁ、やっぱり舎弟って喧嘩強くなきゃいけないのかなぁって思ったんですよ。桔平さんも強かったですし、蓮さんも強い。うーん、対して同じ舎弟の立ち位置にいる俺の取り得と言えばチャリでしょ? なんか使えないなぁっと思って」


 そんなことないだろ、俺の言葉にケイは生返事を打つだけ。

 どうやらケイは手腕に対してコンプレックスを抱いているようだ。「最近の悩みなんですよ」ちっとも喧嘩ができない。それが悩みなのだと、俺に吐露してくる。ケイって見るからに喧嘩を好みそうなタイプじゃない。話していてもおとなしい性格の持ち主だって分かる。
 それでも手腕をコンプレックスに持っているのは、チームに対する仲間意識からか?
 
 ケイは荒川さんの“足”として活躍しているって聞いているんだけどな。

 プリッツを銜えて、しかめっ面を作る荒川さんの舎弟に俺は微笑する。

 
「ケイ。お前はお前の得意分野を極めればいいと思うぞ。荒川さんも望んじゃないだろ? お前が無理することなんか」

「そうなんですけど…、なんか劣等感が出て。きっと俺はヨウの舎弟でいる限り、この劣等感に悩まされるんだと思います。喧嘩したいってわけじゃないんですけど」


 俺、荒川庸一の舎弟として自分に何ができるのか、よく悩むんですよね。
 いたく真顔で語るケイに、俺は思う。やっぱこいつって根っこは真面目なんだ、と。

 だけどなんか、愛でたくなる真面目さだな。
 俺、ケイを見ていると弟って感じがするぞ。なんでだろうな?
 

「いいんだよ、お前はそのままで。俺、今のケイで十分だと思う。仮に手腕のことで舎弟リストラされちまったら、俺のところに来いよ」

「え? 蓮さんのところに?」

「おう。俺の弟分にしてやるから。舎弟でもいいけど、なんかお前は弟分ってカンジがするから弟分にしてやる。可愛がってやるって。ケイは可愛がり甲斐はありそう」


 グリグリ、ケイの頭をかいぐりかいぐりしてやる。
 痛いと悲鳴を上げるケイの頭を小突いて、「まあさ」荒川さんが手放さないだろうけど、と一笑。
 
「だってオモレェしな。ケイって」

「褒め言葉ですか? それ」

「勿論だって。俺はケイを口説いてるんだよ」

「あら、やだ。蓮さんったら、俺みたいな地味くんがご趣味? いいご趣味ですこと」

「ははっ、先に俺をナンパしてきたのはお前だろ?」

 「そーでした」舌を出して笑うケイ。
 そう俺はケイにあの時、ナンパされた。何もかもに自暴自棄になって、和彦さんの声さえ届かなかった俺の後をがむしゃらに追い駆けて来たケイに。




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あきゅろす。
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