006
向こうは何も聞かないし、何も言わないけど。
同じ理由ならだったら二人で遠い場所に行こうか、それこそ嫌なことさえ忘れてしまえる素敵な場所に。嫌なことをちっぽけだと思える場所ってなんだろう? 此処は青春っぽくゲーセン…、いやゲーセンで発散もありだけど。カラオケってのも手ではあるけど。
人工的に作られた場所に行きたい気分じゃないな、今は。
えーっと…、そろそろ隣町に入るけど、近くに何か。
あ、そうだ!
「蓮さん蓮さん。やっぱりコンビニに寄って下さい。この近くにコンビニあったんで」
「なんだよ、本当に喉が渇いたのか?」
「加えて菓子を買いたいんです。たい焼き食った後ですけど、なんか食べたい気分になりそうなんですよ。俺、行きたい場所決まりました! 隣町って海あるじゃないですか。ほら、港倉庫街がある近辺です。あそこに行きましょうよ」
「海、か。いいな、今の季節なら飛び込めるし」
「ははっ。帰りが悲惨になるんでそれはやめましょーよ」
「そりゃそうだ」相槌を打つ蓮さんは、んじゃあ海に行こうかとチャリの速度を上げた。
その前にコンビニに寄って欲しいんだけど。海見ながら、なーんか飲み食いしたくなると思うし。だけど蓮さんは、「近くにあるだろ」そこのコンビニには寄らなくてもいいんじゃね、と言うだけ。俺の申し出を一蹴してくれる。
ちぇーっ、そこでチャリ交代ジャンケンを再戦しようと思ったのに。蓮さんにはばれていたか。
仕方が無い、俺は諦めてチャリの後ろから見える景色を楽しむことにした。
満目一杯に広がる景色は、いつもよりちょいと高め。人間の手によって作られた世界はガタガタンと揺れている。俺がチャリに乗っているから揺れている、その世界はお世辞にも綺麗とは言えない。見慣れない街並みがそこにちょこんとあるだけで感動という感動は薄い。
だけど俺は心躍っていた。
なんでだろう。蓮さんと一緒に過ごしているから、かもしれない。
真っ向から吹いてくる風がすんげぇ気持ち良い。おかげでテンションも上がる。
いつもとは違う日常光景に笑みを深めて、俺は蓮さんの肩を握り直した。
「蓮さん。なんか愉しくないですか?」
「ははっ、そりゃケイがチャリの後ろに乗ってるからだろ? ま、同感だけどな。……おっと、なんか向こうから睨まれているような」
ふと蓮さんが反対側の通りを見やる。
俺もそっちを見やって引き攣り笑い。おーっと通り過ぎる俺達を睨んでいる、なんか制服を着崩した不良野郎がいるぞ。
間違っても歓迎してくれているとは思えない眼差しだな! そんな怖い目つきをしているとお子ちゃま達に泣かれちゃうんだぜ! 子供は感情に正直だから、ワンワン泣いちゃうぞ! ついでに俺もあんな風にガンを飛ばされたら心中で大号泣さ!
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