019
そんな彼に特別な存在になりたいと言ったのは誰でもない私。
強くなりたいから特別な存在に置いて欲しいと願い告げたのは誰でもない、私、若松こころなんだ。
確かにケイさんと折角想いが通じ合ったんだから、女子高生らしく恋愛は楽しみたいけれど…、彼は不良の舎弟だってことを念頭に置いておかないといけない。
ただの喧嘩ならまだしも、今の喧嘩は因縁の籠もった対峙。彼自身も深く傷付くであろう、終わりの見えない喧嘩。向こうのチームにいるお友達のことで心を痛めているのに、私のことまで心を痛める。辛酸を味わうケイさんなんて、見たくない。
それにカッコつける彼のことだ。
喧嘩できないと分かっていても、全力で私を守ってくれるに違いない。
「なるほどな。ヨウに振り回されてきたことだけあって、ケイらしい選択だ。よく理解してるし妥当だ。ココロも、承知の上で…、付き合うって決めたんだな」
真情を聞いた響子さんは、三等分にプリクラを切り分けながら微苦笑。
「プリクラくらい良いと思うんだけどねぇ」警戒心が強過ぎだと弥生ちゃんは、やや呆れ気味に肩を竦めた。それはそうなのだけれど、喧嘩が弱い地味組がチームに対してできることと言ったらこれくらいだから。
「でもココロはいいよなぁ」
重々しい空気を吹き飛ばすように、弥生ちゃんは可愛らしく頬を崩して羨ましいと眼を向けてくる。
「こんな状況下でも、ケイに告白されるなんて。そりゃあ我慢しなきゃいけないことも沢山あるだろうけど…、相手の気持ちを聞けるってすっごく羨ましいよ。ケイって結構負けず嫌いで見栄っ張りだよね。ここぞって時に男を見せてくるし」
私なんて相手の気持ちを察していても、告白の気配すら見せてくれないんですけど。
唇を尖らせて頬を膨らませる弥生ちゃんは、「ヘタレだよなぁ」なんで私、あんなヘタレを好きなんだろう…、と何とも言えない顔で吐息をついている。
ハジメさんのことを言ってるんだろうなぁ。ハジメさんって深慮で慎重派だから、何事も腰が重たい。誰から見ても弥生ちゃんのことは好きなんだって察することが出来るのに、まったく動く気配を見せないんだ。このまま気持ち、伝えないつもりなのかな。
それとも喧嘩を終えてしまってから告白するつもりなんだろうか? 彼の気持ちがイマイチ、見えない。
「だけどさ、やっぱプリクラくらいは良いと思うよココロ。私と響子が見張っていてあげるから、ケイを呼んできなよ」
「え…、でも」
「ケイは確か、ヨウと一緒だったな。UFOキャッチャーをしたいからってヨウの奴、ケイを引きずり回してた。ンと、あいつ等は仲が良いぜ。二人は一階フロアでうろついてる筈だ。事情を話してプリクラを撮っちまいな。あいつ等なら分かってくれるって。ヨウに頼めば、一緒に見張ってくれるだろうし。呼んで来いよ、ココロ」
告白記念としてプリクラ、撮っちまいな。
ウィンクしてくる響子さんと早く呼んできなよっと気遣ってくれる弥生ちゃんに背中を押されて、私は流されるがまま、ケイさんを捜しに足を動かす。たかがプリクラ、されどプリクラだからなぁ。ケイさん、迷惑に思わないかな。だけどプリクラという記念品は欲しいし。
我が儘な気持ちが勝って私は、早足で彼を捜すことにした。
がやがやと賑わっている一階フロアだけど、人は疎ら。チャラついたカップルやゲームセンターのスタッフさん。あ、向こうにシズさんを発見。UFOキャッチャーを前に真剣な眼で景品とにらみ合ってるけど、何を狙って…、ああなるほど。お菓子なんですね。大きなポッキーを狙ってるんですね。シズさんらしいです。声を掛けたら怒られそうなんで、そっとしておくことにします。
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