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彼の弱音


 
 
 暫くファミレスで入り浸り、どんちゃんとお祝いパーティーを行った後、私達はその足で行きつけの三階建ゲームセンターに向かった。

 
 門限やら補導やらのことが気掛かりだったけど、少しだけ遊ぶぐらいなんてことないだろうと喧(かまびす)しいBGMが鳴り響く遊技場へ。
 そこで全員強制参加のエアホッケー大会を開催。私は一回戦で負けちゃったけど(お相手はキヨタさんだった。勝てる筈がない!)、参加したことに後悔はない。皆で参加したからとても楽しかった。
 
 それが一区切りすると少しの間、個人の時間。各々ゲーム機で遊んだり、駄弁ったりして時間を過ごすことになった。
 
 私は弥生ちゃんの誘いで、響子さんと三人でプリクラを撮りに向かった。 
 女子同士では数回プリクラを撮ったことがあるけど、男子との混合は未だにない。誘えば一緒に撮ってくれそうだけど…、チーム内の男子はプリクラにあまり興味が無さそう。男の子ってそういう生き物なのかも。


「あ、そうだ!」
 

 三台目のプリクラ機から出て落書きに勤しんでいた弥生ちゃんが、液晶画面から顔を上げた。
 それでもって、折角だから今度はケイを誘おうと悪戯気に笑みを浮かべてくる。「へ?」間の抜けた声を出す私に、「記念だよ記念」ちょいちょいっと肘で小突いて、自分はハジメさんを呼ぶからと頬を崩す。
 
 記念は嬉しいけれど…、それってあれだよね…、恋人らしい行為になっちゃうよね。
 それはちょっと…なぁ。此処のゲームセンターは不良の出入りも多いし。特に夜のゲームセンターは治安も悪いから、用心に越したことはない。
 
 私は首を横に振った。
 プリクラを撮ることがヤってワケじゃないけど、でも…、ケイさんは、多分首を縦には振ってくれない。率直に物申せば、「えー?」なんで、私が直談判してきてあげようか? と弥生ちゃん。

「なんなら響子が直談判するとか? ケイ、すぐOKすると思うけど」
 
 いや、それは脅し…、うーん…、脅されてもこればっかりは首を縦に振らないと思う。
 頑なに拒む私を不審に思ったのか、何か事情があるのかと響子さんが肩に手を置いてきた。こっくりと首を縦に振る私にもっと不審を抱いたのか、響子さんはプリクラ機からプリクラを取り出し、ハサミがあるカウンター台まで私達を誘導。そこで事情を尋ねてきた。
 
 隠しても追究されるだけだし、べつにこれは二人だけの秘密ってわけでもない。
 
 私は日賀野さん達と決着がつくまで、なるべく恋人らしい行為は避けるつもりなのだと吐露。
 それがケイさんと話し合った結果でもあるから、デートも喧嘩が終えるまで絶対にしないと伝えた。

 「ええ?!」デートさえもしないの? ただでさえ、二人、他校同士なのに?!
 頓狂な声音を上げる弥生ちゃんは、デートくらい良いじゃないか顔を顰めてくる。日賀野さん達の喧嘩なんて、いつ終わるのか先も見えないというのに。1年越しになるかもしれないじゃんか、それでもデートすらしないつもりなのかと詰問する彼女。だってそれがケイさんとの約束なんだからしょうがない。
 
 あんまりケイさんには負担を掛けたくないんだ。
 彼は不良の間で名高い荒川庸一の舎弟、名の売れ始めた舎弟、周囲からも認められ始めている舎弟。その彼に彼女が出来た、なんて日賀野さん達に知られた利用されかねない。
 
 喧嘩ができない彼は、私と成り行きで告白ムードを作ってしまった。
 
 気持ちを伝え合う良い契機は掴んだと思う反面、彼は随分と迷っていた。私を特別な存在にするべきかどうかを。
 両想いで踏み止まろうとしていたくらいなのだから、本当に苦悶していたのだと思う。ヨウさんの舎弟をしているだけあって、肩書きのせいで巻き込まれる恐ろしさをケイさんは知っている。私を親身に心配し、敢えて友達のままでいようとしていた姿は哀愁漂っていた。
 



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