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017



 大きな雫を二、三粒目から頬に滑らせて、「はい」うんうんと何度も私は頷き、彼の手を握り締めた。
 痛いほど握り締めているにも関わらず、ケイさんは何も言わない。「大丈夫」ちゃんと好きだよ、不安を察して言葉にしてくれる。もっと涙が溢れた。嬉しくても涙って出るものなんだね。あったかい感情が雫になって止め処なく零れ落ちる。
 


「ふぁ〜…早速…見せつけられた…。あまい」



 と、シズさんが欠伸を零して一言。
 「え?」いやそんなつもりはっ、ケイさんは一変してアタフタアタフタ。口笛を吹くワタルさんはナニ、彼女を泣かせてるんだと指差した。「純愛っスね」流石は俺っちの兄貴、感動する光景っス! キヨタさんは間違った方向に感動しているし。
 
「おいこら、ケイ。妹分のココロを泣かせたら、マジどうなるか、ちゃーんと肝に銘じとけよ」
 
 極めつけにケイさん、満面の笑顔で響子さんは脅されているし。
 「うぃっす!」肝に銘じときますと敬礼をするケイさんは、「俺のためを思うなら泣き止んでくれよココロ」早速、感涙している私を泣きやまそうと声を掛けてきた。かなり焦っているみたい。矢継ぎ早に慰めてくれる。


「ココロ。大丈夫だからさ、もう泣き止めって。泣き止んでくれないと俺、響子さんに殺されるんだけど! マジだぞ、本気だぞ、響子さんならやりかねないぞ! 付き合い始めて即、命日を迎えるとか不幸過ぎる!
だからな、泣き止んでおくれよココロさん。それとも、君は成り立ての彼氏が此処で果ててもいいのか? ココロはそれでもいいのか! 一日にしてフリーになっても宜しゅう?! レッツ、ファイナルアンサー!」
 

 オーイェーイ、傍観している皆さんも回答をどうぞ。受け付けます。
 周囲にも意見を煽るケイさん。口を揃えて「OK」と言われたものだから、皆、薄情だと大袈裟に彼は嘆いてみせた。嗚呼、何気にムードメーカーで笑いを誘う彼が本当に可愛らしくて愛おしくてキザ。だけど不良達のため、仲間のために突っ走る男前さん。

 グズッと洟を啜って私はちょっと大きめの声で「ノーです」、頬を染めながら彼に言った。
 「流石は彼女!」ココロだけは俺の味方! 大好きな笑顔を私にいっぱい、いっぱい、見せてくれる。笑みを返して、私は目尻を下げた。やっぱりケイさんが大好きなんだ私。両想いになれたことを神様に感謝したいほど、私は彼が大好きだ。


「んじゃあ、ケイとココロを祝って乾杯しようぜ。んー、ファミレスは酒が頼めねぇのが難点だよな。俺等、制服だし。うっし、今度誰かん家で飲み会しようぜ」


 音頭を取るヨウさんが、コーラの入ったグラスを片手に乾杯と声を張った。続けて私達も乾杯。
 
 店内が騒がしくなるのは申し訳ないと思うけど、こういった馬鹿騒ぎが楽しくて仕方がなかった。少し前の私だったら馬鹿騒ぎする集団を敬遠していただろうに。
 嗚呼、今まで味わったことない友達の温かさ、優しさ、喜ばしさ。お友達と一緒にいる事がこんなにも楽しいと思えるなんて。あの頃は学校が終われば即家に帰って、ごろごろとしたり、手芸に勤しむのが楽しかった。だけど今は家に帰りたくないと思うほど、彼等の傍が心地良い。

 日賀野さん達の対峙の最中(さなか)、私は日常の幸せを沢山抱き締めた。
 喧嘩ばかりの毎日だけど、私自身、こうした日常の方が好きかもしれない。泣いて笑って喜んで、彼に告白したその日、私とってかけがえのない宝物の1ページになった。…わけだけど、その日は大きく決意を固める日でもあった。




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あきゅろす。
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