[携帯モード] [URL送信]
010




 嗚呼、ケイさんの嘘吐きっ、そして酷いっ。

 私はヨウさんに憧れしか抱いていないって言ったのに。ヨウさんを見るときの目、すげぇ優しそうだ。すっごく嫉妬するんだからなっ、なんて言っ……、嫉妬する? 誰が誰に? ケイさんがヨウさんに? なんで、二人は仲が凄く…、私がヨウさんを優しく見るからケイさん、ヨウさんに嫉妬。


 それって、もしかして。

 
 面を食らってしまった。
 じゃ、じゃあ…ケイさんの好きな人って弥生ちゃんじゃなくて、やよいちゃんじゃなくて。

 ぎこちなくケイさんを見やると、彼は笑いもせず、真顔で「違うんだよ」説に訴えてきた。
 俺の好きな人は弥生じゃないんだ、声音を震わせてくるケイさんは凄く緊張している。いつもの調子乗りなんて一抹も出さず、口を開閉して唇を震わせた。違うんだと連呼するケイさんは、私の気持ちを察している。同時に私もケイさんの気持ちを察してしまった。


「俺…、弥生のこと友達としては好きだよ。弥生ってお喋りが好きだからさ、調子乗りの俺に合わせてくれて、結構一緒にいること多い。でも弥生のことはそういう対象で見たことないんだ。ハジメがいるってのもあるし、俺自身、良いお友達感覚。そういう好きじゃないんだ」
 


 ―――…ケイさんの好きな人は弥生ちゃん、ずっとそう思い込んできた。
 
 彼等が和気藹々と語り合う姿は微笑ましいと同時に、やさしい空気を生み出す。
 それがこの上なく羨ましかった。弥生ちゃんは誰からも好かれる明るい子、ムードメーカー。私にはない眩い性格を持ち前に、皆に元気を分け与えていた。私には出来ないことをしてみせる可愛い女の子。
 当然、仲良く駄弁るケイさんも次第次第に彼女の魅力に見せられて恋情を抱いた。そう思っていた。

 だけど、違った。 



「俺の好きな人、弥生じゃないんだよ」



 誤解をしないで、訴え掛けてくる眼に私は魅せられた。
 
 ケイさんの瞳…、日本人らしい澄んだ黒い瞳をしている。他人(ひと)の瞳ってこんなに透き通った色をしているんだ…、知らなかった。向こうに映る私の姿を捉えるケイさんは何を思って私を見つめているんだろう?
 「ココロ。俺っ…」緊張に言葉を詰まらせ、でも屈しないよう声音を通らせる。高鳴る鼓動を無視して私はケイさんの言葉を待った。


 同時に聞こえてくる、「集合、榊原チームに動きがあったらしいぞ! 集合、直ぐに集合!」集合の声。
 
 
 一変して空気は崩れ、あはは、あはは、私達はお互いに乾いた笑いを浮かべた。
 ううっ、こんなことってあるでしょうか。いえ、状況を把握せず勝手に告白ムードを醸し出していた私達が悪いんですけれど、でもっ、告白をしてから集合を掛けてくれてもっ。ガッデムです。ケイさんの気持ち、聞きたかった。

 肩を落としながら、私はケイさんと一緒に木材から下りる。
 ちょっと皺の寄ったプリーツを軽く伸ばして、私はケイさんに行きましょうと微苦笑。そしたらケイさん、ふいっと視線を逸らして頬を掻いた。彼はなんだかちょっと照れた様子だった。


「あのさ…ココロ。『エリア戦争』が終わったら…ココロに言いたいことがあるから。…予約な」


 ドキリと鳴る鼓動。
 嗚呼、ケイさんは今の告白を予約という形で残してくれた。だったら私も、伝えたい事がある。
 

「…はい。私もケイさんに言いたいことがあるので、…予約です」
 

 すっごく気恥ずかしい念に駆られるけれど、悪い気持ちはしなかった。
 知らず知らずに零れる笑みをケイさんに向けると、何処となく優しい瞳で彼は私と同じ表情をしてくれる。瞼の裏に焼き付けるように彼の微笑を瞳に閉じ込めて、私は笑声を漏らした。


 とても、とても、とってもくすぐったい気持ちが胸を占めた。
 




[*前へ][次へ#]

10/29ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!