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「でもな、ココロ。俺、負けって分かっていても気持ちは伝えようと思うんだ」


 え?
 瞠目する私に、ケイさんは目を伏せながら言葉を重ねる。


「結局勝ち負け関わらず相手を見てる俺がいるんだ。気にしない振りをしようとしても、あれれ? いつの間にか相手のことを考えちゃってる俺? みたいなカンジ。何気ない仕草に振り回されてるっていうのかなぁ。どーしても何かせずにはいられないから。勝てそうになくても、最近…気持ちを伝えようかなって思う俺がいるんだ」

「ケイさん?」


「何でかな…、今までの俺だったら、きっと行動を起こそうと思わなかったのに」

 でもな、何もしないで終わりたくない俺がいるんだよ。往生際がワルイコトに。
 ヨウ達と出会ってから、負けず嫌いっつー厄介な面が俺の中で見え隠れしてるんだ。どうしてもこれでおしまいにしたくないんだ。どうせならスッキリフラれて、失恋をヨウに慰めてもらって、これからもイイオトモダチでいましょう的に仲良くしていきたい。

 こう思っている俺って、随分考え方が成長したよ。
 今までだったらムリの一言で終わって、自然と気持ちを消そうとしていたのにさ。

 
「恋愛に対しては消極的だったんだけどさ。ちょっとだけ積極になってみようと思ったんだ。フラれたら舎兄がラーメン奢ってくれるって言ってくれてるし」


 淡々と胸の内を明かしてくれるケイさんの横顔は晴れ晴れとしている。
 怖くない、のかな、相手に自分の気持ちを伝えること。私だったら無理、絶対に無理。気持ちを伝えたら迷惑だと思われそうだし、今までの関係が崩れてしまいそうだし、イイオトモダチでいましょうなんて空気、醸し出すことも出来なくなると思う。臆病で卑屈な私だから、傷付きたくない相手のことを裂けまくりそう。

「ケイさんは…、本当にお強いですね。私だったら恐くて気持ちなんて伝えられません…、相手に迷惑になるんじゃないかって思ってしまって」

「んにゃ、俺だって恐いよ」

「じゃあなんで…」

「俺がカッコつけ、だからかもしれない」

 ケイさんはここ一番の笑顔を見せてくれる。
 その笑顔にときめきを覚えたのは、私の気のせいじゃない。


「きっと俺、自分が傷付きたくないから告白って行為を避けてたんだ。傷付くくらいなら諦めよう、どーせ俺じゃ相手にされないだろうしって…、思っていた。でも今回はちょっと勇気を出してみようと思う。ま、地味くんでもやれます根性を見せてみようかと…な?」
 

 意気揚々と語るケイさんに勇気付けられたのはなんでだろう。
 ああそうか、ケイさんは私にとって好意を寄せる以前に憧れの人。不良さん達と真っ直ぐに駆ける姿が大好きで憧れるんだ。ケイさんがこんなにも頑張る発言してるなら、私も頑張ってみようかな。


「ふふっ。何だかケイさん、凄く…自分を持ってますね。私と似たタイプなのにケイさんは強いです。私も見習いたいです。何だかケイさんに勇気付けられた気がしました。気持ち…、私も伝えてみようかなぁ」

「一緒に頑張ってみる? 告白」


「そうですね、頑張れるだけ頑張りたい…ような気がします。私、以前も言ったようにずっと苛められっ子で。ウジウジ、グズグズばかりしては相手の顔色ばかり窺っていました」
 
 
 響子さんのおかげで随分改善されたけど、今でも自分の発した発言に一々相手の顔色を窺ってしまう残念な私がいる。
 相手に嫌われないか、癪に障らないか、また苛められたりしないか…、オドオドする自分がいる。根暗で卑屈になってしまう自分がいることに嫌悪したり、意志の弱い自分に落ち込んだり、相手に流されてしまう自分に溜息をついたり。

 幾分マシにはなったとは思うけれど、まだまだネガティブな自分がいる。

 ヨウさん達に出逢えて、やっと前向きになれる自分を掴めたんだ。
 
 学校では恐れられている不良さん達がこんな私に優しく、そして仲良くしてくれたおかげで今の私がいる。
 嗚呼、小中学時代のようにウジウジばかりしたくない。自分を変える意味で気持ちを伝えてみるのもいいかもしれない。フラれるって分かっていても、ケイさんなら、変わりなく私と接してくれる。きっと、そうきっと。


 その旨をケイさんに伝えれば、うんっとケイさんは頷いて笑顔を作った。

 



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あきゅろす。
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