006
「んー。なんかさ、こういうのって私、よく分からないけど強行突破ってできないの? こう…大勢なんて目じゃない! みたいなカンジで」
「具体的に強行突破するってどげんゆうこつだ?」
「ケイみたいなカンジで突破すれば良いと思って」
白けた空気に包まれ、呆気に取られるグループ内。
打破しようとケイさんは素っ頓狂な声を出してどういうことだとアタフタ。悪びれた様子もなく弥生ちゃんは満面の笑顔で答えた。
「ケイっていつも言ってるじゃん。ヨウをチャリに乗せて強行突破したって」
「んー? ……ああ、それってヨウが無闇に喧嘩を売買したものだから、相手の逆恨みを買っちまって、最悪集団に追い駆けられるっていうアレか? そりゃアレは、人数が人数だし。チャリで逃げるしかないと思って強行突破するけど」
「それだよそれ! だからさ。東西にいる都丸チームと刈谷チームを無視したいなら、びゅーんっと突破すればいいじゃん! 打倒榊原なら、びゅーんっと強行突破! どう? 名案じゃない?」
すると電光石火の如くハジメさんが戦法を思いつき、強行突破プラス、スピード勝負でいこうと意見。
スピードを上手く使えば、都丸チームと刈谷チームを潰し合わせることもできる。無駄な労力を使わず、最終目的に辿り着ける。ハジメさんは強くつよく訴えて、弥生ちゃんに大手柄だと褒めを口にしていた。それはケイさんも同じで、大手柄だと大絶賛。
得意気な顔を作る弥生ちゃんはケイさんの背中を思いっ切り叩いて、目尻を下げた。
「それもこれも、ケイがオモシロ強行突破話を私にしてくれてくれるからだよ!」
―――…その言葉に心が痛かった。
ケイさん、弥生ちゃんといっぱいお話しているんだ。同校っていうのもあるだろうけれど、きっとそれだけじゃない。ケイさんは意図して弥生ちゃんと話している。だって彼は弥生ちゃんの事が好きなんだから。
胸が悲鳴を上げていたけど、私は平然な顔をしてその場を凌いだ。そうしないと泣きそうだったから。
あっという間に戦法が決まると、ハジメさんはヨウさんに報告へ。
情報収集に行こうとしていた弥生ちゃんだけど、思い出したようにハジメさんの下に駆け出す。その一光景だけで弥生ちゃんはハジメさんのことが好きなんだって分かる。だって駆け出す足取りが軽快なんだもん。
恍惚にケイさんはソレを眺めていた。
なんだか、二人の様子に溜息をついて……、「はぁーあ、切ない」とポツリ。見るからに落ち込んでいるような…、ど、どうしよう聞いちゃいけないことを聞いた気がするけど、落ち込んでいたら励ましたくなる。
「げ…元気出して下さい! え…あ、なんて…安易に言っちゃいけないと思いますけど」
ケイさんの隣に腰を下ろして、モジモジと手遊びをしながら声援を送った。これでもすっごくすっごくすーっごく勇気を振る絞った方だよ、私。
びっくりしたような顔でケイさんは私の方を見てきたけど、一変して柔和に綻ぶ。
「励ましありがとう。いやさ、ちょっと感傷に浸ってたみたい」
その感傷って…、やっぱり弥生ちゃんに。
いつもだったら、いつもだったら絶対に口走らないことなんだけど、その時の私は自制が利かなかった。
「ケイさん…恋してるんですか?」
「へ? っ、まっさか!」
動揺しまくるケイさんに、言わなきゃ良かったなぁと思いつつも彼をこんなに動揺させる事が出来るなんて、ちょっとした悪戯に成功した気分。「一本取ったみたいですね」おちゃらけてケイさんに微笑む。
ケイさんはあからさま動揺、頬を紅潮させ、「どうしてそう思うんだ?」理由を聞いてきた。
勿論ソレは私がずっと貴方を見続けていたから、なんて言えるわけもなく女の勘だと答える。うん、これもある意味本当のことだし。
動揺を続けていたケイさんだったけど、諦めたのか、白状した。
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