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 ―――…あの日、あの時、あの瞬間まで私達の関係に変化は無かった。
 

 お互いに両想いと知らなかった当時の私達は、表面上あくまで好(よ)きお友達でいましょう関係を貫く予定だった。気持ちを伝え合う勇気なんてなかったし、諦めることが当然だと思っていたから。
 
 けれど転機は訪れる。
 きっかけは浅倉さん達と同盟を結び、“エリア戦争”と呼ばれる不良同士の喧嘩に参戦したことからだった。“廃墟の住処”と呼ばれる商店街(殆どシャッター通りなんだけど)の陣地を巡って私達は喧嘩に参戦。三つのチームと争って、浅倉さん達のチームを陣地争いの勝者にさせることが私達の目的だった。


 怖くない喧嘩、といえば嘘になる。

 私自身、喧嘩なんて一抹もできないし、男の子ましてや不良になんて勝てる手腕なんてないから余計“エリア戦争”への参戦は怖かった。


 でも怖いなんて言ってられなかった。だって実際、その喧嘩という名の戦場に向かうのはヨウさん達なんだから。
 足手纏いにだけはなりたくない。その一心で私は私なりに出来ることを探した。例えば弥生ちゃんの情報収集について行ってお手伝いするとか。話し合いをしている不良さん達の気晴らしになればと、近くのスーパーで飲み物を買って来るとか。私にできる雑用を一生懸命こなした。

 これで役立っているとは思えなかったけど、少し前にヨウさんに「元気ないな」って声掛けされて、私自身チームに役に立っているかどうかで悩んでいると告げた時、リーダーの彼は言ってくれた。
 

『テメェは立派な俺のチームメートだ。自信持てよ』


 って。

 だから自分なりにできる事を探して、そのできたことを自分で褒めて、自信を持つようにした。じゃないと励ましてくれたヨウさんに失礼だと思ったから。
 それに一生懸命雑用をこなしていたら、向こうのチームの人がこんな声を掛けてくれた。

 それは買って来た飲み物を配布していた時のこと。

 向こうのチームの副リーダーの涼さんに、


「荒川のところには気の利く女の子がおって羨ましかぁー。どげんしても男は気が利かないのばっかやけん。こっちにも女の子が欲しかぁ。ばってん、和彦さんが女の子を入れるとは思えんし」


 ところどころ九州弁が交じっていたけれど、総合評価として分かったのは気が利く女の子だと私を褒めてくれていたこと。
 誰かに褒められると役立っているんだなぁって胸が軽くなった。小さなことでも誰かの役に立てる、イコールそれが私自身のチームへの存在意義にかわるから。向こうの人にちゃんとヨウさんのチームメートなんだって見てくれたことに私は嬉しかった。
 
 着々と“エリア戦争”の準備が進められていく中、私は向こうのリーダーさんとお話しする機会も掴む。

 同じく飲み物を配布していた時のこと。
 浅倉さんはヨウさんと話し合っていたんだけど、「ヨーウ!」ケイさんが舎兄の下に駆けてきたことで話し合いが中断。ヨウさんは、駆けて来るケイさんにどうしたと声を駆けて歩んだ。ケイさんはヨウさんの前に立つと、持っていた紙を指でなぞりながら説明を始める。


「商店街の地形のことで一つお前に知ってもらいたいことがあるんだけど、時間いいか? ちょい緊急なんだけど」

「分かった。浅倉、俺はちょっと席を外す。すぐ戻るから」


 言うや否や、ヨウさんはケイさんとどっぷり話し始める。
 尻目に私は「休憩がてらにどうぞ」浅倉さんに缶コーラを配布、受け取ってくれる浅倉さんは目尻を下げてお礼を言ってきた。そのまま退散しようと思ったんだけど、「あいつ等は」の掛け声に踵を返せなかった。


 そっと浅倉さんを見上げる。

 途切れた言葉を繋ぎ合わせるように、浅倉さんは閉じかけた口を動かした。





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