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「絆ってのは諸刃の剣だ」




「俺…、弥生のこと友達としては好きだよ」

 ―――…その時のケイさんは初めて見る表情を浮かべていました。


「弥生ってお喋りが好きだからさ、調子乗りの俺に合わせてくれて、結構一緒にいること多い」

 ―――…いつもの調子ノリもないケイさん。


「でも弥生のことはそういう対象で見たことないんだ」

 ―――…いつになく真剣なケイさん。


「ハジメがいるってのもあるし、俺自身、良いお友達感覚。そういう好きじゃないんだ」

 ―――…真っ直ぐ私の目を見る瞳は緊張を宿していました。



「俺の好きな人、弥生じゃないんだよ」


 ―――…じゃあケイさんの好きな人は…、好きな人は…、誰。



 ◇ ◇ ◇
 


 和菓子屋さんは、複合商業施設の外に何軒かあるとケイさんが教えてくれた。
 その内の一軒を目指して私とケイさんは大通りを歩いている。早くじいじ・ばあばと両親のお土産を買ってケイさんの家に行きたい。その一心で歩みを進めた。
 
 背丈が違うせいか少し幅の違う歩調、彼の方が歩調的に大きいけれど速度を落として私と肩を並べてくれる。気遣ってくれているんだって実感すると、欲張りな私は彼に想われてるんだなぁってついつい自惚れてしまう。
 
 ケイさんの横顔を脇目に、私は結んだ手のぬくもりに心躍らせていた。
 
 白昼堂々人盛りの多い場所で手を結ぶなんて、私達にとってはすっごく勇気のいること。
 夜に手を結んだことはあるけれど、真昼間に手を繋ぐのはこれが初めて。

 だって手を繋ぐ行為、結構目立ったりするから。なんか見せ付けているような気分になる。
 私が傍観者側に回ればまさに“見せ付けられてるなぁ”って思ったりするんだけど、まさか自分がそっちの立場に回るなんて思いもしなかった。見せ付けている現実に軽く恥らいながらも、私は絶対に手を解きたいなんて思わなかった。


 折角のデートだもの、デートらしいこと…、したいんだ。
 
 今までゆっくりとデートも何もできなかったし、私達は他校同士。
 同じ恋人の立ち位置にいる弥生ちゃんやハジメさんと違って、会える時間は限られている。いつも我慢している分、傍にいたいし、思い出に残るようなことをしたい。
 

 と、私の我が儘はさておいて、さっきから私達の間に会話が飛び交っていない。

 何かあるとすぐ沈黙になってしまう私達、まだ恋愛に慣れていないのは言うまでもないよね。だってしょうがない、私にとってケイさんは初カレ。デートなんて初めてだし、異性とどうコミュニケーションをとればいいのかチンプンカンプン。
 手を繋いでから、何を喋ろうかと考えはするんだけど、考えるだけで話題が出てこない。何を喋ろう。

  
「なんか、こうして手を繋ぐのってあの日以来ですね。ケイさん」

 
 ようやく出てきた話題に、ケイさんは視線を投げてくる。

 「あの日?」首を傾げるケイさんだけど、ちょっと思案した後、ああっと納得。あの日が告白した日って分かってくれたみたい。照れくさそうに空いてる手で頬を掻いて、「そうだなぁ」ぼやきを口にした。記憶のページを捲っているみたい。
 頬を掻いたまま思い出す素振り。で、何かを思い出したのか盛大に溜息をついた。 

「あの日は色んな意味で大変だったぁ。告白よりも、その後が…なあ?」

 同意を求めてくるケイさんに、私も思い出のページを捲って失笑。
 

「そうですね。まさかあんなに大きな騒ぎになってるなんて…、なんで私達が誤解し合ってるって皆さん知っていたんでしょうか?」

「謎いよな! 俺とココロだけの秘密だったのにッ…、今だってこのネタでヨウに散々からかわれるし」

 
 ぶつくさ文句垂れるケイさんだけど、実は私としては、とっても良い思い出に位置付けられている。だってあの日は私にとって人生最高の日、誰かを好きになれて本当に良かったと思い知った日なんだから。

 
 目的地の和菓子屋さんに到着した私は、ケイさんとお土産を選びながらあの日を、ううん、あの日に至るまでの日々を思い出す。気持ちを伝え合う、そのきっかけはなんだったっけ―――…。





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あきゅろす。
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