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 するとキヨタさん、照れたように頬を掻いて「俺っち何もしてませんよ」弟分として思ったことを言っただけだと目尻を下げる。
 
 「俺っちだって」不安が無かったわけじゃないっスよ、キヨタさんは次いで吐露を零した。
 音信不通の兄分のこと、心配だし、もしかしたら…という不安も当然あった。けれど、弟分が信じてやらないでどうするのだと自身に言い聞かせていた。キヨタさんは晴れ晴れとした顔で、得意気に口角をつり上げる。
 

「俺っち、モトの背中を見てきました。何があってもヨウさんを信じて、真っ直ぐ追うその姿は凄い。例え、舎弟を作ってもモトはヨウさんを兄分として選んだ。強いっス、俺っちの親友は。
俺っちもあいつのようになりたい。例え、向こうのチームに寝返るかもしれないって周囲から疑惑を向けられても、俺っちは今の兄分を信じていきたいんっス。自分で選んだ上に、自分から弟分にしてくれって志願したんっスから、それくらい当然だと思ってますっス」


「キヨタさん…」

「そう思う俺っち、おかしいっスかね? ココロさん。おかげでチームへの協調性がない自覚はあるんっスけど」


 ポリポリと頬を掻いて語り部に立つキヨタさんに綻ぶ。
 
 「いいえ」とても素敵なご覚悟だと思います、私の嘘偽りない返答に上機嫌になるキヨタさんは、弟分として頑張りたいのだと高らかに宣言。今は弟分にならせて下さいと弟子入りしたような状態だけれど、いつかちゃんと認められて弟分に。そして舎弟になりたい。尊敬する人の舎弟になりたい。
 キヨタさんは一点の曇りもなく胸の内を明かしてくれた。
  

「ココロさん、ケイさん大好きっスよね?」
 
「へ?」
 

 豆鉄砲を食らった気分、なんでいきなりそんな話題に。ひ、否定しないと!
 「俺っちしかいませんって!」挙動不審になる私に笑って、「俺っちは大好きっスよ」キヨタさんは自分の気持ちを教えてくれる。
 

「俺っちもあんな風に調子ノリで、スッバラシイかっこつけさんになりたいっス。残念な事に女の子が好きだから、そっち方面で好きーっ! は言えないっスけど。あ、そしたらココロさんと好敵手になるか。ですよね、ココロさん」

「き、キヨタさん!」

「頑張って下さい。俺っちも頑張りますから。ココロさんには負けせんよ。憧れる気持ち」
 

 すっかりご機嫌を取り戻したキヨタさんは、すくっと立ち上がって制服についた砂を払い始める。私も倣ってスカートについた砂を払い、プリーツを綺麗に直す。
 「ありがとうっス」ふとキヨタさんからお礼を言われて、私は彼を見つめる。染め直した黒髪を軽く触った後、気持ちがすっきりしたとキヨタさんは笑顔を作った。

「ココロさんって名前のとおり、心を穏やかにしてくれる人っスね。なんかささくれ立っていた心が和らいだ気がします」
 
 名前のとおり、そういう力があるのかもしれませんね。
 褒め上手なキヨタさんは、「戻りましょう」ヨウさん達が戻っているかもしれないと前進。だけどすぐに足を止めて、振り返ってきた。
 
 
「もしも、もしもの話っスけど、ケイさんが寝返ったりしたら…、ココロさんはケイさんのこと嫌いになるっスか?」


 寝返ったらケイさんはチームからいなくなってしまう。対峙関係になってしまう。敵だと思わないといけない人になってしまう。
 ―…だけどきっと、私はキヨタさんと同じ答えだと思うんだ。真っ直ぐに兄分を信じている、キヨタさんと。例え、ケイさんが私達チームじゃなく、向こうのお友達を取ったとしても、私は。

 
「悲しんだり嘆いたりはします。気持ち的に苦しくもなるでしょうね。だけど、それって好きだからこそ…、そうなるものだと思います。きっと私の答えはキヨタさんと同じです」

「十分なお答えどもっス! ココロさんと話せて良かった。元気もらった気分っス!」
 

 それはお互い様ですよ、キヨタさん。
 
 私は笑顔で答えて彼と共にたむろ場に戻った。
 片隅で音信不通の彼に疑心を抱いたりもするけれど、それは心配だからこそ、だ。心配が裏返って疑心が芽生えてしまうんだ。ケイさんに限定したことじゃない。もしもチーム内の誰かが彼と同じ立場に立たされてしまったら、同じような現状に追いやられてしまったら、心配してしまうし、一方で疑心を抱いてしまう。
 大事なお友達だからこそ、強い心配の念を抱き、ついには疑心を抱いてしまうのかもしれない。人間の感情って複雑だ。

 でも、ね、ケイさん。
 私やキヨタさんは貴方の連絡を待っていますよ。ううん、私達だけじゃない。チーム全員が貴方の連絡を待っています。貴方が大切なお友達だから。
   



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