019
手厳しい言葉だけどハジメさんの言うことは正論だ。
私達は今、グループじゃなくて日賀野さん達から勝利をもぎとるためのチームとして集っている。私は向こうチームに直接的な因果は無いけれど、こっちのチームに属すると決めた以上、チームメートとして向こうを敵だと見なさないといけない。
けれど、ケイさんはどうだろう?
向こうに仲の良いお友達がいて、それこそ私たちよりも付き合いの長いお友達がいて、その人を簡単に敵だと見なせるのかな。私だったら無理、例えば響子さんが突然前触れもなしに敵になってしまったら、それはそれはショックだし、対立することを拒んでしまう。寧ろ、響子さん側についてしまいそう。
―――…ケイさんも、まさか、まさ「可能性がなんっスか!」
ビクッ、怒号に驚いて私は身を小さくする。
「俺っちは可能性より、今までのケイさんで判断するっス! そりゃダチは大切かもしれませんけど、誰がなんと言うとケイさんは向こうチームになんか行かない、行かないっス! だってケイさんっ、弱い男じゃないっスっ…、俺っちの見込んだ強い男っス! 喧嘩は弱くても芯の強い男っスよ! ケイさんをあまり見くびらないで下さいっス!」
心外だと憤りを見せるキヨタさんは、これ以上皆の意見なんて聞きたくないと駆け出してしまう。
「あ、おい!」ったく面倒な奴だな、ヤレヤレと肩を竦めて後を追うモトさんはキヨタさんに待てよ、と声を掛けて地を蹴った。唖然とする私達だったけど、誰よりも早く我に返って爆笑したのはワタルさんだった。膝を叩いてゲラゲラと大爆笑。
「ケイちゃーんもスンバラシイ弟分作ったねねねん! 愛がつよーい! これはケイちゃーん、向こうチームに寝返るに寝返られないじゃぱーん! ま、寝返ったら寝返ったでキヨタちゃーんまで連れて行かれそうだけどねんぴ!」
「まったくだよ。そんなことになったら、チームの足と戦力の両方をいっぺんに失って荒川チーム大ピンチ、寧ろ大敗目前」
笑い話じゃないのに笑い話にするワタルさんとハジメは凄いなぁ。全然笑えない話なのに。
程なくしてモトさんが戻って来る。キヨタさんの姿はない。どうやらヘソを曲げてしまっているらしく、近くの自動販売機前でジベタリングしているとか。何を言ってもヘソを曲げ、その場で座り込んでしまっているらしく聴く耳を持たないとモトさんは失笑。
ああなったら最後、暫く放っておくしか手がないと言う。キヨタさんの大親友がそう言うんだから、本当に聴く耳を持たないんだろうなぁ。
………。
事情を聞いた私は間を置いて、こっそりとたむろ場に背を向けた。
向かう先はキヨタさんがいるであろう自動販売機前。足を運んでみると、案の定キヨタさんがむっすりと脹れて自動販売機前に座り込んでいた。邪魔になるだろうに、背を自動販売機に預けてぶうっと頬を脹らませている。子供のような態度に微笑を零し、私は彼に歩み寄った。
「キヨタさん」
「……ココロさんっスか。俺っち、戻らないっスよ」
ぷいっとそっぽを向いて戻らない宣言。
けれど私は笑声を漏らすだけ。私はキヨタさんを迎えに来たわけじゃない、お話に来ただけなんだ。静かにキヨタさんの隣に座って、私は膝を抱える。視線が流れてきたから、彼とそれに合わせる。途端に外されてしまって、私はまた一笑を漏らしてしまった。
不機嫌に「なんっスか」って文句を貰ってしまったけれど、構わず私は話題を切り出す。「ケイさんって凄いですよね」と。
「あんな身形してるのに、不良の舎弟をやってのけたり、喧嘩に参戦したり。私、彼にとても憧れてるんですよ。同じ地味ちゃんとして」
いつも傍で見ていました、彼のことを。
外見とても大人しそうな人かと思えば、ひとたび口を開けば面白い人。周りの空気を盛り上げたり、時に空気を呼んでチームに助言したり。負けず嫌いですっごくカッコつけさんだったりもしますけど、それもご愛嬌だと思います。
私、憧れている人が三人いるんですよ。
一人目は響子さん、私の姉分です。彼女のように強く優しい女性になりたいと常日頃から思っています。
二人目はヨウさん、チームのリーダさんです。仲間意識の高さと、その気遣いは誰にも負けない。隔たり無く接することのできるヨウさんはリーダーとして本当に器のある人だと思っています。
そして最後はケイさん、チームメートさんです。彼は周囲の評価を跳ね飛ばす力を持っている。あんな風に私も跳ね飛ばす力が欲しい。
きっと今、ケイさんは跳ね飛ばす力さえないほど落ち込んでいるのだろうけれど、ケイさんのことです。きっとまた顔を出してくれる。私はそう信じたいです。
「って言っても、さっきまでちょっと疑心を抱いちゃって…、キヨタさんのおかげで迷いが吹っ切れました。ありがとうございます。私、真っ直ぐ憧れの人を信じられそうです。キヨタさんにお礼を言いたかったんですよ」
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