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017


 

(ケイさん、大丈夫かな)
 
  
 たむろ場に戻った私は、追試組の不良さん達に問題を教えながら彼の身の上を心配していた。
 とてもとても動揺していたケイさんが、チームからヒトリ抜けて何処かへ行ってしまう。多分、ケイさんのことだからケンさんと一緒なんじゃ…、二人で話し合っているのかもしれない。お互いに対峙しているチームに身を置いていることについて。

 心配に心配を重ねて、更なる心配を胸に抱いていると、「なあ…」ヨウさんがおもむろに声を掛けてきた。
 もしかして勉強で分からない点でもあるのかな、「どうしたんです?」訊ねれば、ヨウさんは持っていたシャーペンを放って真っ直ぐ私の方を見つめてきた。首を傾げる私に、ヨウさんは間をたっぷり置いて聞く。「ケイになんかあったのか?」と。
 

「俺さ…。目の前のヤマトのことで手一杯だったからチーム内をよく見てなかったんだけど…、ケイの奴、途中から様子がおかしかっただろ。なんか、ヒトリで背負い込んでるような顔してたし。あいつの悪いところが出てるような気がしてな」
 

 ヨウさんの問い掛けに、私はオロオロと視線を近くにいた弥生ちゃんやキヨタさんに流した。
 ケンさんのこと安易に公言していいかどうか分からなかったんだ。けど、「向こうのチームにダチがいたんっスよ」即答でキヨタさんが公言。
 
「すっごく仲が良かったダチがいたみたいで…、ケイさん、それにショック受けていたんっス。知らなかったみたいなんっスよ、日賀野チームにダチがいたこと」

「ケイのダチが向こうに?」

「そうっス。ケイさんは大丈夫って言ってたんですけど、あれは誰がどう見てもヘコんでたっス。今頃はダチのところに会いに行ってるのかもしれないっス」

 神妙な顔で語るキヨタさんに、ヨウさんはまたたっぷりと間を置く。次いで、掻いていた胡坐を解いて立ち上がった。


「ちょいケイに会ってくる」

 
 なんかこのまま放っておいたらヤバイ気がする、ケイの性格上…なんかヤバイ気が。ヨウさんは眉根を寄せたまま、「テメェ等は勉強してろ」そう吐き捨て、携帯を片手に早足で、否、駆け足で倉庫から飛び出した。
 まだ話は終わっていないというのに、ヨウさん、居ても立ってもいられなかったんだろうなぁ。真っ赤に染まった茜空の下へと行ってしまった。

「大丈夫でしょうか」
 
 彼の背を見送った私は思わず本音をポツリ。
 同じく背を見送ったキヨタさんは、「舎兄に任せるっス」それが一番良い方法だと口にした。
 

「男って変にプライド高いっスから、情けない姿をあっちこっちに見せたくないっスよ。いっちゃん気の置けない奴だけに弱い部分を見せて、どうにか気持ちを持ち直すもんっス。ケイさんも例外じゃないっスから…、今、一番ケイさんに必要な人はきっとヨウさんなんだと思うっス。ケイさんにとっていっちゃん気の置けない人だろうから」

「…分かるんですか?」


「そりゃ俺っち、ケイさんの弟分ですから分かるっスよ!」
 

 よく見てるでしょ、俺っち。
 あどけない笑顔を向けてくるキヨタさんに、思わず「そうですね」相槌を打って笑声を漏らす。そういうものなのかな、男の子って。女の私には分からないけれど、きっと男の子の弱さって人には簡単には見せられないんだろうな。ケイさん、意外と負けず嫌いだし。
 ヨウさんと会うことで、ケイさん、少しは気持ちを持ち直せたらいいな。元気になれなんて言わない。でも、少しは気持ちが軽くなったら…、願わずにはいれなかった。
 



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