016
「なんだよ。なんかあったのか?」
空気を察したヨウさんが、再度質問。
慌てて私達は「なんでもないって!」「なんでもないです!」誤魔化し笑い。
「なにかあったって言われればあるようなないような。でもないんだよな、ココロ」
「は、はい。結論から言いますとないですよね。ケイさん」
「は…ははっ、参ったよな」
「え、ええ…ほんとに…参りましたね」
笑いも、視線がかち合えば溜息に変わる。なんで、どうして、こうなってしまうんでしょう。私達。
取り敢えず皆さんに飲み物やお菓子、ルーズリーフを配布して、追試組に勉強を教えるという流れになったのだけれど、私とケイさんはちっとも参加できなかった。寧ろ、お互いに避け合っているものだから、ほんっと不良の皆さんにご迷惑を掛けてしまう始末。
見かねた響子さんがこっそりと私に「喧嘩でもしたのか?」、心配を寄せてきてくれる。
「いいえ」喧嘩なんてしてませんよ、愛想笑いで返すけれど内心は溜息ばかり。ただ喧嘩をしたならまだマシだったと思う。本当に喧嘩だけなら、まだ。
私はそっと彼に視線を流す。
倉庫の窓一角でキヨタさんと会話しているケイさんは、困ったような顔を浮かべて笑っていた。始終困り顔。嗚呼、やっぱりケイさんにとって魚住さんの誤解は不都合極まりないんだ。だってケイさんは弥生ちゃんが…、困った顔、させるつもりなかったのになぁ。
改めて自分がケイさんにとってどういう立ち位置なのか思い知らされる。別に期待していたわけじゃないけれど、でも、現実として形付くと結構傷付く。
(ケイさん、嫌だったろうな)
気の無い女と男女の営み疑惑を掛けられたなんて。間接的に傷付けたんじゃ…、そう思うと胸が重石のように重たくなる。
弥生ちゃんとだったら、ちょっとは違ったのかな。ケイさんの反応。
響子さんが心配してくれる中、やっぱり私は溜息しか出なかった。
それから数日間、私とケイさんのぎこちない関係が続いた。
会話を試みようとしても弾まず、だからと言って無視するほどの関係でもなく、ぎこちなく会話・挨拶・談笑をして空気を悪くする。不良の皆さんからは本当に何があったのだと多々心配されたけれど、この遣る瀬無い説明をどうすればいいかも分からず、私とケイさんは何でもないを貫き通した。
その内、私は気付く。
やっぱりケイさんとは良きお友達として今までもこれからも、ずっと仲良くしていこうって。私の気持ち、ケイさんにはすこぶる邪魔だろうし、私自身もケイさんを困らせたくない。あんなに気まずい関係を作るなら、これからもお互いに親近感を抱く地味友でいようって。どうせ弥生ちゃんには敵わないんだ、性格的にも容姿的にも。
無理してぎこちない関係を作るよりも今までどおり、お友達オーラを醸し出してケイさんと仲良くしよう。
心でそう決め、とあるファーストフード店に行った時、ケイさんと一緒に不良さん達のまで“ただのお友達です”宣言を開いた。
絶対に好意なんてありえない。お互いに似たり寄ったりの類(たぐい)だから、周りからそう見られがちなのだと疑惑を抱いている不良さん達に断言。好きなくせに、私はケイさんの気持ちそのものを否定してしまった。
矢先、ケイさんに事件が降り掛かった。
それは日賀野さん達とバッタリ遭遇した時のこと。向こうのチームの中に、なんとケイさんの中学時代のお友達が紛れていたのだ。お友達の名前は山田健太さん。通称ケンさん。ケンさんはケイさんと大の仲良しだったらしく、彼と再会したケイさんは激しく動揺をしていた。傍で見ていた私の目から見ても、彼は本当に動揺と驚愕。受け入れ難い現実にショックを隠しきれていない様子だった。
そんな彼になんと声をかけて励ませば良いのか分からず、また数人がケイさんのショックを目の当たりにしていたから、仲間内で心配されていた。
そして間もなく、ケイさんはたむろ場に戻ろうとするチームから離脱。ヒトリで何処かに行ってしまうのだった。
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