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09-21



「気持ちが板挟みになるんだよな。意見の合うダチを取って自分を偽らないようにするか、異見しちまっている親友に合わせるか。まさにケイは俺サマと同じだ。結局俺サマは前者を取っちまったけどな。ケイも知っているだろ? アキラと俺サマの関係」


こっくり、俺は一つ頷いた。
そして思い出す。ワタルさんもまた俺と似た境遇に立たされていることを。

魚住昭。
ワタルさんの元親友。
今は日賀野チームに属す有望な情報屋。

現在は仲が悪いみたいだけど、親友だった事実と過去は変わらない。こんなことを聞いちゃいけないのかもしれないけど、どうして仲が悪くなったんだろう。二人って。


「原因は喧嘩の拗れ……些細な喧嘩が発展して今に至るんだ」

 
こちらの心中を読み取ったワタルさんが、そう俺に教えてくれる。

百円ライターで煙草の先端を焼きながらワタルさんは語り部に回った。
彼と魚住は小中学校時代、何でも意見の合う親友だった。意気投合する仲間だったんだって。

曰く、あの頃は何でも意見が合う仲だと思っていたらしい。
意見が仮に違っても、どちらかが必ず妥協する仲だったらしく、それはそれは唯一無二の親友と呼ぶべき存在だった。

けれどヨウと日賀野を筆頭にグループが分裂する事件が起きた。その時ワタルさんは初めて魚住と意見が食い違う。
どちらかが妥協するということもなく、お互いに意地張って大喧嘩。

それが今も継続している。
語り部に立つワタルさんが静かに煙草をふかした。

ふーっと真っ白な紫煙を吐いて、彼は苦笑いを零す。


「ヨウとヤマト、どっちにつくか随分と悩んだもんだ。アキラは最初からヤマトについていくつもりだったようだが、俺サマはどうしてもヤマトの意見に納得できなくてな。勿論、対立するヨウとヤマトの意見にはどっちも共感ができたし、ヤマトについて行っても支障はないと思っていた。俺サマは別にヤマトのことが嫌いじゃなかったからな。いや、今も嫌いじゃねえよ。あいつ、ああ見えて仲間思いだしな。癖はあるけどよ」


ウィンクをしてくるワタルさんに俺は引き攣り笑い。
日賀野がイイ不良って……俺をあんだけフルボッコにするは。利二に危害を加えるは。舎弟になれとしつこいは。一々俺にちょっかいを出すは。

嫌な愛され方をしてくるし(おぇっ。愛され方って……表現を誤った!)、運命の黒い糸で繋がっているし。

その日賀野がイイ不良、だと? ちーっともそう思えないのは俺の偏見か?

露骨に嫌悪感を出していたのだろう。

「フルボッコにされたケイはそう思えないか」

ワタルさんは大笑いして膝を叩いた。


「けど仲間思いなのは確かだぜ。敵には厳しいが、身内は大切にする。ヨウとは別のやり方で仲間を守ろうとしているんだよ。ゲーム感覚で喧嘩をするのはあいつの悪い癖だが、仲間思いって点はヨウと共通していた。ま、ヨウとは最初から馬が合わなかったみてぇだが……根は似ているんだぜ。根っこはそっくりだ。笑えるほど気質は似ている。ただ性格が正反対なだけだ。ヨウは馬鹿みてぇに性格が真っ直ぐ。ヤマトは馬鹿みてぇに性格が曲がりくねってやがる。あんなに根っこはそっくりなのにな。今思い出しても笑い話、初対面からお互いに気に食わなさそうな面してやがったんだぜ、あいつ等」


想像ができる。今ですら顔を合わせるだけで幼稚な罵倒を浴びせあっているのだから。


「ヤマトがケイを執拗に舎弟に誘っているのも、何か惹かれるものがあンじゃねえの? ヨウがそうだったようにな。ただちょっかいを出しているようには見えねぇや。俺サマはそー思っている。モテんなぁ、ケイ。羨ましいぜ」

「じゃあ俺と替わりましょうか? 喜んで交替しますけど! モテるなら女の子にモテたいのに、何が悲しくて野郎にモテモテ……不良難過ぎませんか俺?!」


また一つワタルさんの笑声が空に吸い込まれる。

「遠慮しとくぜ」

くつくつ笑うオレンジ髪の不良は軽く両手を挙げた。本音なのだろう。



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