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諦めるが一番の解決方法



◇ ◇ ◇



ヨウ達の追試まで残り二日に迫った土曜日。

今日は午前中だけ授業があったから朝から学校に登校、昼前まで授業を受けて解散。

追試組だけは教室に残って月曜日から三日かけて行われる追試について説明を受けた(おかげで俺等は月曜から三日間休みだ)。

その間、俺とハジメはヨウ達を待つために廊下で待機。適当に駄弁って皆を待つ。

五、六分程度でヨウ達は出てきた。

思いっ切り、しかめっ面作って出てきたもんだから笑っちまった。

ほんとに嫌そうな顔しているんだヨウ達。

その時の顔は不良という着飾った顔じゃなくて俺と同年代の顔。

不良の雰囲気なんて一欠けらもなかった。
ワタルさんでさえ、不良というより、俺と同い年の青年って感じがしたよ。

でも、まあ、ヨウ達はヨウ達で努力しているんだ。死ぬ気で勉強している。

留年がかかっている理由も勿論あるけど、追試によって保護者を呼び出されるなんて冗談じゃない! ってのが一番にきているんだと思う。

特に家庭環境が複雑なヨウやシズは人三倍勉学に励んでいる。二人とも親が嫌いで仕方が無いみたいだ。

それにチームのこともあるしな。追試を一発でパスしないと、響子さんになんて言われるやら。


「あーあ。月曜は英Tと数Aと現社か。初っ端からきちぃな」


配布されたプリントを眺めながら、ヨウは苦虫を噛み潰したような顔を作る。

ヨウはどちらかというと理系みたいで、数学に関しちゃ問題は無い。やればできる子で問題を解く回数を重ねたら点数が上がった。

だけど英語はからっきしみたいだ。初っ端から英語があることに嘆いていた。ヨウの奴、単語を見るたびに愚痴を零しながら電子辞書で調べているもんな。

根っから英語を嫌悪しているようだ。


「僕ちゃーん英語はいけそう」


同じく追試内容のプリントを眺めながらワタルさんは軽く溜息。

ワタルさんはヨウとは逆で数学がイマイチなんだ。
英語はまずまずで、文法を掴めたらスムーズに問題を解いていた……発音問題は勘だと言っていたけれど。二人を足して二で割れば丁度いいんだろうな。

「私、全部苦手なんだよ。どーしよう。もう駄目だ」

手に持っていたプリントを四つ折りにしている弥生が小さく溜息を零す。

弥生は全体的に理解するのが遅い。特に暗記系が苦手みたいで、現社みたいな暗記系になると音を上げちまう。
弥生のために俺とハジメで、単語帳まで作ってやったんだけどな。なっかなか憶えられないっぽい。

「弥生、単語を口に出すと頭に入りやすいよ。俺、後で一問一答式で問題出してやるからさ。諦めるなって」

言葉を掛けると哀愁漂う微笑が返ってきた。


「ありがとう、ケイ。留年したら先輩と呼んであげるからね」


いや、だから諦めるなって。
俺は苦笑いを零しながら弥生を励ます。

ムードメーカーの弥生だけど、ここ数日は覇気がない。不安で仕方がないんだろうな。

そりゃ常日頃からサボっている俺達が悪いとは思うけど、でもなぁ、ここまで落ち込んでいると同情しちまう。やっぱ不安なもんは不安だって。

皆は進級するのに、自分だけまた新一年生と時間を過ごすなんて。同級生の卒業を見送る羽目になるんだぜ?
俺だったらぜーったいヤダね! 切なくなる! きっとヨウ達も同じ気持ちだと思うよ。

だからこそ必死に勉強するんだろう。 

これから俺達、Mックに行くんだ。

そこでお勉強会。
他校に通っているシズ達と待ち合わせをしている。中学組も来るんじゃないかな。あいつ等も来たいと言ってたし。

ま、邪魔をすることは無いだろ。
ヨウ達のために単語帳とか、せっせと作っていたしな。

「おや? そこにいるのは学校の負け犬くんたちじゃないか」

廊下を歩きながら駄弁っていると前方から嫌味ったらしい声が聞こえた。

ヤーな予感を抱きながら視線を前に投げる……嗚呼、最悪である。先輩が立っていた。ただの先輩じゃない。

以前、俺達に窓ガラス破損事件の容疑をかけた生徒会会長、須垣誠吾先輩。相変わらずキラースマイルが素晴らしいことで。

須垣先輩を確認するや否やヨウが殺気立った。
皆が皆、揃って須垣先輩を苦手としているんだけど、特にヨウは須垣先輩のこと好きじゃなくて(理由:日賀野に性格がソックリだから!)。

ニッコリと笑ってくる須垣先輩に対し、ヨウは舌打ちを鳴らした。

これでとどまれば万々歳だけれど、そこは須垣先輩である。こちらの反応が予想できるだろうに構わず、俺達を指差して鼻で笑う。

「そのプリントは、もしかしてもしかすると追試の案内かな? やっぱり日頃の行いが祟ってるんだね。負け犬くん」

「んだとテメェ」

「ま、まあまあ、ヨウ。相手にするだけ無駄だって。行こうぜ。な?」

必死にヨウを宥めた。相手をするだけ俺達が馬鹿を見る。ここはさっさと立ち去った方が賢い。

けれど俺の努力を霧散するように、須垣先輩が見事にそれを打ち崩してくれる。
見下すような目で俺達を眺め、「パスできたらいいね」ヒラヒラと手を振って脇を通り過ぎて行く。去り際、俺達に先輩は一言。


「君達のような負け犬が卒業できるのか疑問だよ。せいぜい中退しないようにね」


あははは、君達に学習できる知能があるのかどうか疑問だけど。
笑声を漏らしながら、須垣先輩は大変素晴らしい嫌味を残して行ってしまった。

カッチーンのブッチーン。俺の隣からそんな擬音が聞こえたのはその直後。

「あ、あああいつだけはぜぇえってッ、ぜぇってえええ!」

「お、落ち着けってヨウ! 喧嘩より勉強が先だろ! 気にするなって、お前ちゃんと点数上がっているんだから!」

「そうだってんぷら。ヨウちゃーん、短気過ぎ。いくらヤマトちゃーんに似てるからってさぁ」

「だっからこの手でぶっ飛ばしてぇんだよ! あんにゃろうっ、鼻で笑いやがってー!」

「バカバカ! 学校で喧嘩を起こしたら洒落になんない……ワタルさーんヘルプ!」

「あーもう。ヨウちん、落ち着いてってばぁ!」

ヨウが握り拳を作って先輩に向かおうとするものだから、俺とワタルさんで必死にそれを止める羽目になった苦労話は余談にしておこうと思う。




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