08-12
「重くないですか?」
声を掛けてきてくれるココロに俺は大丈夫と微笑を向けた。
二つに分けられた買い物袋の内、俺は飲み物が入っている重い袋を担当。ココロは菓子類が入っている軽い袋を担当している。
内心、ちょい重いと思っているけどココロに持たせるわけにはいかない。そんなことしてみろ、響子さんの鉄槌によって女にされちまう!
それにチャリまでほんの少しの距離。重いけど耐えられそうだ。
思案をめぐらせている間にも、あっという間にチャリをとめている文具店前に戻って来た。俺はカゴに買い物袋を乗せて掛けていた鍵を外す。
さてと買い物も済んだし、さっさと戻らないと。あーんま遅くなったら、また皆がにやついた顔で、
「ジャジャジャジャーン! 呼ばれて飛び出てアキラちゃーんじゃーい!」
ビクッ!
そのワタルさんに似た、ウザ口調は……うわっつ、出たァアアア!
声の方角を見やった俺は咄嗟にココロの腕を引いて背に隠す。目前に現れたのは日賀野チーム。元ワタルさんの親友であり、チームの情報役を担っている食えない男のひとり魚住昭。
相変わらず眉辺りにしているピアスが痛そうだ。どうやってそこにピアスを指しているのか、無知の俺には謎も謎である。
もうひとり、魚住の隣に立ったチームメートがいた。帆奈美さんだ。ヨウとアダルティーワールドを作り上げていた女不良さんが俺達の前に現れた。
「け、ケイさん」
雰囲気で相手方が日賀野チームだと察したらしく、ココロの顔から血が引く。無意識だろう、俺の腕を掴んできた。
最悪の状況下だ。
こいつ等がいるってことは俺の超トラウマ不良もどっかにいるんじゃねえの? あいつ、神出鬼没だからなぁ。ああくそっ、俺に喧嘩できる力がありゃいいのに。
「貴方はヨウの舎弟」
警戒心を募らせている俺達の一方で、帆奈美さんが毅然と観察してくる。彼女から悪意は感じられない。
「怯えなくても何もせんぞい。今日は偶然、此処を通り掛っただけじゃけぇ」
魚住からは邪悪な気を感じられる。
見るからに甚振りそうな眼だ。向かい合っているだけで胃が痛む。
蛇に睨まれた蛙のように動けずじまいの俺達に対し、「なあんもせんせん」と魚住が手を振った。おどけを宿した瞳が笑みを含んでいる。
「信用……できないんですが。何せ、あなた方のチームリーダーはちょっかいばかり出してきますし」
「そりゃあ、ヤマトじゃからのう。ヤマトのことじゃけえ、お前にちょっかい出したいんじゃ。舎弟、愛されとるのう!」
随分と歪んだ愛し方ですね! 俺、もっとソフトな愛し方されたかったですわ! ……日賀野に愛されるのだけはごめんだ。想像するだけで胃が痛くなる。
うぇー、思い出しただけでも胃がギッリギッリしてきたよ。
「ま、此処で会ったのも何かの縁じゃけえ。どっかで駄弁らんかのう? 丁度2対2じゃけえ、話しやすい。所謂情報交換じゃい。腹の探り合いを前提にした茶会は楽しいぞい。どうせそっちも情報が欲しいじゃろうし? どうじゃ、帆奈美」
「どちらでも」
よ、良くないに決まっているだろう!
何であんた達とのほほんお茶をしなきゃいけねぇんだよ! 情報を探り合うなら尚更だ! お断りだお断り!
「それともなんじゃい。ヤマトに連絡してみるかのう? あいつのことじゃ、すっ飛んでくると思うぞい。呼ぶか?」
ぜってぇ嫌に決まっているだろー! あいつと探りあいを前提としたお茶なんて死んだってごめんだ!
あいつの頭脳を持ってしてみれば、巧妙に情報を聞き出してくるに違いない。策士の前じゃ勝つ希望も持てないぞ。
全力で頭(かぶり)を横に振る。
「無理に決まってるじゃないですか」
ご尤もなことを言ったつもりなんだけど、「舎兄に許可を取ればええじゃろーよ」なんかずれた答えが返ってきた。よほど情報を探りあいたいらしい。
ええい、くそうっ。
此処は冷静になって、落ち着いて、そう、相手にズバって言ってやるんだ。あんた等とお茶をする気はないって、さあ、田山圭太、言ってやれ!
「どっちにしろお使いを頼まれているんで無理です」
「あー、パシられてるのけぇ? そりゃ残念じゃーい」
フッ、言ってやったぜ。
形は違えど、言ってやったんだぜ。お断りする事ができたんだぜ。やればできる、俺。
え? ズバっと言ってやるんじゃなかったのかって?
そんなもん、心の中だけに決まっているだろーよ! 不良だろうが地味だろうが、お誘い受けたら丁重に断るというのが礼儀だろ、礼儀!
相手方の反応を窺っていると、ココロがぎゅっとしがみ付いてくる。
せめてココロだけでも安全な場所に避難させたい。どうここを乗り切ろうか。
うんぬん悩んでいた俺達を余所に、「おやん?」「なるほど」不良達が納得した面持ちを作る。
どうしたんだ?
怪訝に観察を続けていると、「邪魔してはダメね」と帆奈美さんが肩を竦め、「喧嘩とプライベートは違うからのう」と意味深長に笑う魚住。自己完結させている不良達についていけず困惑してしまう。
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