10-09
「ハジメって顔に出やすいからな」
俺はおどけ口調で笑った。
「悩んでますって顔に書いてある。恋の悩みか? だったらドチクショウって言ってやるぞ。リア充なんてドチクショウだって言ってやるからな!」
相手は怖い不良。
だけどいつもの調子で言ってやる。
するとハジメは一笑を零した。何を言っているんだとばかりに口角を緩めて、わざと俺から目を逸らす。
「それはケイだろ? チームメートのどっかの誰かさんに恋煩いを抱いているだろ?」
「いやぁ見抜かれた? 実はそうな……わけないだろ! なに言ってくれるんだよ!」
返り討ちにあって俺は赤面してしまう。
「ケイって顔に出やすいな」
まんま人の口調を真似してからかってくるハジメに、ちぇっと舌を鳴らした。
なんで俺が恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだよ。俺、何かしたか?
人をからかうハジメは濁りのない笑みを絶え間なく作っている。曇り顔なんてどこにも見当たらない。
基本的に皆と一緒にいる時は晴れ顔なんだ、ハジメって。
心配させないようにしているのか、それとも純粋に悩む姿を見られたくないのか、会話している時のハジメは元気そのもの。
だけどひとりで物思いに耽り始めると晴れ顔が一変、淀んだ曇り顔になる。
俺は幾度もハジメの切迫した顔を目にしてきた。
今まではそっとしておいた方がいいのかなぁ、と放っておいたけど、ある程度放置しても状況が変わらないなら歩み寄るのも大切だ。
うん、男、田山圭太、やるときゃあやります。
ハジメも不良さんだから俺の恐い対象だけど、友達としてやってやるよ!
「前にさ」
俺は笑声を漏らしているハジメに、小声で話を切り出す。
「不良の落ちこぼれだって口走っていただろ? だから……もしかして“不良の何か”で悩んでいるんじゃないかと思ったんだけど」
まどろっこしい言い方をしてもはぐらかされそうだから、俺はストレートに質問することにした。
相手の笑声が苦笑い混じりになる。
「そうだね……」
曖昧に返答するハジメは俺に隠すこともなく、否定することもなく、問い掛けを肯定した。
隠しても無駄だと分かっていたのかもしれない。ハジメは状況判断に長けているから。
「価値を見出せないことが苦しいんだろうね」
なにより喧嘩ができないことにつらさを覚える、ハジメは笑みを消して苦言する。
だったら俺もできないんだけど、俺は即答した。
なんたって日賀野にフルボッコされた哀れな地味男子高生だからな!
ちなみに情けなくフルボッコされたのは俺だと思う!
だってハジメのフルボッコの場合はどっちかっていうとリンチだろ? 複数で袋叩きに遭ったんだから。
しかも弥生を守っていたんだから、カッコイイやられ方じゃないかよ。
一方の俺は……フッ、日賀野大和ひとりにフルボッコなんだぜ。
女の子を守るなんてことは一抹もなかったんだぜ。
敢えて言うなら守った相手は利二かもしれないけど、あいつとはその後に大喧嘩だったもんなぁ。
なさけないやられ方をしたよ。思い出しただけで、俺は身震いだ。
「なあハジメ、喧嘩ができなくて悩んでいるなら気にしなくてもいいと思うけどな。俺だってできないし」
「それでもケイはヨウの舎弟としてやってきたじゃないか。僕は君を敬いたいよ。僕と大違いだ」
ハジメ軽く目を伏せて、ふわっとそよぐ風を感じている。
不良がそよ風を感じる。それはしごく絵になる光景だけど、モデルのハジメが儚く脆く見えて仕方が無かった。
「……何がハジメをそんなに苦しめているんだ?」
徐々にハジメの心の傷に触れていく俺は、いつも以上に慎重に話を進めようと努力する。
詰問しちまったらハジメだって萎縮して、何も言わなくなると思うから。
それに安易に話したくないことだってあると思う。
だからやんわりと、あくまで友達として静かに問い掛ける。
少しだけ口を閉ざすハジメだったけど、軽く一笑して下ろしていた瞼を持ち上げた。
「ケイ、少し昔話をしてもいいかな?」
「ん、付き合うよ」
俺の返答にハジメは礼を言って、ポツリポツリと昔話を始めた。
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