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10-06




「――簡単に受け入れられる話じゃねえってことくれぇ、テメェでも分かるだろ。浅倉」



協定交渉にヨウは険しい顔で返した。
実情を言えば、協定は俺等にとってプラスな話だ。

何故ならば協定を結ぶことによって日賀野率いるチームと対等に渡り合える面が多くなるから。宿敵である日賀野チームは幾つもの不良チームと協定を結んでいる(らしいよ。詳しくは知らないけど)。

俺達は協定を結んでいる不良チームをシラミ潰しに伸しているけれど、これは手間隙掛かる作業でとても面倒だ。

肝心の日賀野チームに喧嘩を仕掛けるまでの道のりが遠く、一体何チーム潰せばいいのか先も見えない。無駄に労力も費やしてしまう。


正直なところ、協定を結んでいる不良達とはあまり喧嘩したくない状況だ。日賀野達に行き着くまでにスタミナ切れしそうだから。

今、チームで喧嘩の要になっているのは主に喧嘩のできない俺とハジメを除く男組。後は女子組で響子さん。


俺達のチームは強いほうに属するだろう。

ただし、致命的な弱点として人数と体力が挙げられる。
チーム内に四人も喧嘩ができないメンバーがいるとなると、要になっているメンバーの肩に掛かる負担も重くなる。そう頻繁に喧嘩ができるわけじゃない。

特に合気道経験のあるチーム一腕っ節・キヨタは先陣を切ることが多いから生傷が絶えない。


先陣切ってくれるあいつは誰よりも傷を負うから、キヨタにはマメに休んで欲しい。ヨウも気に掛けているほどだ。

いくら腕があっても、毎度先陣を切っていたら誰よりも疲労が溜まるだろう。
本人は大丈夫だと笑っているけれど、キヨタはチームの切り札でもある。できることなら温存しておきたい。

そんなわけで、俺等もそろそろ手を組んでくれる他のチームが欲しいとは思っていたところだ。

一緒に日賀野達を倒す! ……まではいかなくとも、日賀野チームと協定を結んでいる不良を伸してくれるような、そんなチームが欲しかったんだ。


だからこそ浅倉和彦の申し出は正直ありがたい。 


ただそうは言ったって簡単に協定を結べるほど俺達も軽くない。日賀野チームと対立している真っ只中なんだ。

もしかしたら俺等を探りに……という強い懸念も抱く。

「協定交渉? やっりぃ、とっとと結んじゃいましょう!」

軽くなれるわけないよな。


それを分かっているから、ヨウは拒絶もしなければ受け入れもしなかった。

本当の意味でチームの顔になりつつあるヨウは成長したと思う。
少し前のヨウだったら、「協定? それ面白そうだな」でさっさと結んでいただろうに。ほんとリーダーらしくなったよ、ヨウ。


ヨウの返答を見越していた浅倉さんは、「だよなぁ」砕けた笑いを見せる。


「まあ、一応事情は聞いて欲しい。おりゃあ、お前等とじゃないと協定を結ぶ意味はないと思っているからなぁ」

「俺等じゃないと? どういう意味だ?」


もっと簡潔に説明するよう促すヨウ。

「涼」

浅倉さんは黄緑髪の不良、涼さんに説明を任せた。
九州出身なのか、涼さんは「自分でよかですと?」九州弁で浅倉さんに聞き返していた。

ちなみに涼さんはチームの副頭。
ついでに桔平さんと浅倉さんは俺とヨウのように舎兄弟を結んでいるとか。

任せたと浅倉さんに言われ、涼さんは俺等に会釈。遠慮がちに説明を始める。


「池田チームを知っていますか? 池田邦一チームなんですが」


知っているも何も池田チームを伸したのは俺等だ。

いやぁ、あの時は大変だったな。
何が大変だったかって舎弟問題が勃発していたからな。

今じゃ良き思い出……でもないか。まだまだ最近の思い出だしな。



「つい最近、池田チームが壊滅したとです。あ、自分、所々訛りが入ると思うのですが、気にせんといで下さい。なるべくは標準語で話すよう努めますんで……で、話は戻るんですが、極々最近の話、池田邦一率いる不良チームが壊滅しました。

奴等は此処から15分ほど歩いた先の商店街を支配下に置いていたチームなのですが、壊滅したことによりエリアは完全フリーとなりました。

知っているかもしれませんが、寂れた商店街エリアは不良の巣窟になりやすいです。

商店街自体が寂れてますんで、そこに住居を置く奴も少ないですし、元から治安が悪いんで店と実家を別個にする奴も多い。補導員の目も掻い潜りやすいですし、他校の教師達もそうは足を踏み入れない地。真夜中に馬鹿騒ぎしてもそう簡単に通報は入りません。

まあ……つまりは商店街エリアは不良達がたむろするにはもってこいの場所です。付近の不良達は寂れた商店街エリアを『廃墟の住処』と呼んで、我が物のエリアにしようと虎視眈々狙っていました。

しかし今までは池田邦一率いるチームがエリアの一切を支配していました。誰も池田チームには逆らおうと思いませんでした。
というのも池田チーム自身に畏怖の念は感じなかったものの、誰もが奴と繋がっているある不良チームに怖じていた。奴等はこの辺りで有名過ぎる不良チーム、日賀野大和率いる不良チームと繋がりを持っていたとです。

日賀野チームに対抗するほどの力を持っていないと自覚していた。プラス、池田の悪知恵に誰もが廃墟の住処に手を出そうなんて思わなかったとです。手を出せばどうなるか馬鹿でも分かりますから。

ばってん、池田チームは壊滅しました。

今までエリアを狙っていた不良達は爆ぜたように、そこを我が物としたとです。ある意味、今の寂れた商店街はエリア戦争と化してるとです。自分達チームも参戦しているため、四チームが今、商店街のエリアを分割して支配。相手の陣地を奪おうとしている状況になるとです」


「そういや、この頃不良達の間でテリトリー争いをしている噂が立っているな」


ヨウの呟きに、俺はそうなのかと瞠目。

「知らないのかよ」

近くに座っていたモトに毒づかれた。それでもヨウの舎弟なのかと付け加えて。

いやそんなこと言われても俺、基本的にご近所の不良の内情なんて知らないし。
日賀野チームで手一杯だぜ! 俺は日賀野チームだけでお腹一杯だ! おかわりはいらない!




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あきゅろす。
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