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10-02




「だからヤマトさんは男前なんですよ。表向きは喧嘩をゲームだと楽しんでいるだけ、でも裏では仲間を守ろうとする。おれはヤマトさんを心底尊敬しています。アキラさん達みたいに、おれは中学の因果があるわけじゃありませんが、ヤマトさんのために何かしたい……未練をさっさと断ち切りないといけないのは分かってるのになぁ」



――早く古い自分とおさらばしないと。


ふぅっと張り詰めていた息を吐き出し、ケンは左ポケットから携帯を取り出す。

アドレス帳を呼び出し、画面に映し出すのは『田山圭太』と登録された連絡先。

メアドも、自宅と携帯の電話番号も、誕生日も、血液型も、住所も、そこには登録されている。


「ケン、無理はしなくていい」 


ススムは言う。

チームはチームのこと、そして個人は個人。個人の事情とチームを一緒にしなくてもいいと。


しかしケンは迷うことなく呼び出したアドレス帳を削除する。

ボタン一つで数十秒も掛からず、中学時代の一番の友達の連絡先を、気持ちを、思い出を削除するのだ。


何もかも消えて欲しい、まっさらな関係に戻って欲しい、彼と出会う前の自分に戻って欲しい。そう願いを込めて。


だが、連絡先は消えても気持ちは簡単に消えてくれない。

消した途端、色んな思い出が走馬灯のように脳裏に流れ過ぎていくのだ。


あの日、あの時、あの瞬間、自分達は確かに馬鹿みたいに笑い合い、些細な喧嘩もし、そして一緒に過ごしてきた。

これからもずっと友達だと信じて一緒に過ごしてきたのだ。


田山圭太と絶交、対立という結末を迎えると知っていたのなら、彼と最初から仲良くなんてしていない。

これからもずっと、そう信じていたから、居心地が良かったから、友達としてやってきたのに。

圭太なら自分が不良になったとしても、きっと「地味だったくせに!」と素っ頓狂な声を上げなら、変わらず友達として接してくれると思っていた。


なのに……こんなことになるなら、彼と出逢わなければ良かった。あんなに仲良くしなければ良かった。


「馬鹿野郎……圭太の馬鹿野郎。なんで不良の舎弟になんか、よりにもよって荒川の舎弟になんかになっちまったんだよ」


振り絞るように上擦った声を出し、ケンはその場に蹲る。

「ケン」

ススムは項垂れているケンの頭に手を置き、何も言わず煙草をふかす。

今、どんな言葉を掛けたとしても彼には慰めにすらならないだろう。

だから傍にいてやるのだ。
ただただ黙って傍にいてやるのだ。

(ケンは暫く、仕事を回さない方がいいだろうな。後でヤマトに掛け合ってみるか)

ススムは銜えている煙草を手に取り、赤々と燃えている火種を見つめる。中学の因果は過激を増す一方だ。

それはヤマト達があの因果に決着をつけるために望んでいたこと。自分はそれに賛同し、副頭として精一杯協力していくつもりだ。

しかし代償として仲間内も傷付いてしまう。
因果も何も関係ない仲間がこうやって今傷付いている。それは胸が痛く、心苦しいもの。


(ヤマトはお前のことを本気で気に掛けていた)


だからこそ、荒川の舎弟に目を向けている節もある。
彼が此方に入れば、少なくともケンの傷は癒えるに違いない。

無論、薄望みにしか過ぎないだろう。
向こうの舎弟は荒川チームになくてはならない存在となっているのだから。


「ススムさん、今、協定を結んでいるチーム、どれくらいやられているんですか?」


不意に飛んでくる質問。

「半分くらい潰されている」

率直に伝えると項垂れていたケンがスンと鼻を鳴らす。
潤んだ目を見られぬよう、かぶりを振ってゆっくりと口を開いた。


「もう……衝突も目の前ですね。だったらおれは、奴等を、あいつを潰す。それがせめてものケジメですから。チームに迷惑は掛けられない」


おれは田山圭太を、いや、ケイを全力で潰しに掛かる。
唸るような声で決意を露にするケンにススムは何も言えなかった。そしてケンもまた、決意表明を止めることができない。

過去の自分を断ち切るためにも、今の居場所を選んだ自分自身のためにも、何よりケイのためにも、自分は相手のチームと友だったケイを全力で潰しに掛かる。

向こうの頭の舎弟を担っている中学時代の友を……自分の手で。

未練がましい自分と、中学時代の古い自分に、もう用はないのだから。


(けど)


そうは思っても、やっぱりどこかで胸が痛む。
この胸を掻き毟りたくなるような痛みは何処にぶつければいいのだろう――?


ケンは思う。


自分達はどうして友達になってしまったのだろう。馬鹿みたいに何度も自問自答してみるが、答えは何一つ出てこなかった。




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あきゅろす。
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