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山田健太の憂鬱



侘しいネオンが点滅している商店街外れ、とある一角にある地下のバーにて。



日賀野率いるチームに身を置いている山田健太、改めケンは、こっそりとたむろ場にしている地下のバーを抜け出し、曇天模様の地上へと立っていた。

気持ち的に地下ではなく地上の空気が吸いたかったのだ。

地下の空気は篭っている気がする。

しかし地上に立ってみてもさほど空気は変わらず、ただただ冷気の纏った風が自分の心を通り抜けていくだけ。気持ち的に楽にはならなかった。

両手をスラックスに捻り込み、地下に続く階段横の壁に寄り掛かる。

ぼんやりと曇天を仰いだ。
今の時刻は夕暮れ、本来ならば紅に色染まる空が地上を見下ろしてくれる筈なのに。

灰色の分厚い層が大空を覆っているように、自分の心もまた曇天模様。気鬱という雲が自分の心を隠してしまっている。

はぁっと空気の塊を出し、右のポケットに捻りこんでいる煙草を取り出す。

銘柄はセブンスター。
幾つもの煙草を吸ってきたが、これが一番のお気に入りだった。


中学時代は煙草なんて無縁。

保健の授業で煙草は有害物質だからと習い、絶対に吸うわけないと思っていた自分がこうやって煙草を銜えているなんて。

煙草を吸う奴の気が知れない、なんて中学時代は口走ったが、まさに自分は“気の知れない”奴と化してしまった。

苦笑を零して煙草を銜え、百円ライターで先端を焙(あぶ)り、そのまま煙草をふかす。

漂う紫煙はスーッと空気に溶けていった。
紫煙のように、自分の気鬱も消えてくれたらいいのに。

ケンはそう思わずにはいられなかった。


「考え事か? ケン」


地下に続く階段から声。
視線を投げれば、紅色の髪を持つ不良が地上に上がって来る。

彼の名は斉藤進、改めススム。此方のチームの副リーダーを務める不良だった。

見事なまでに紅く染まった髪を揺らしながら、ケンと肩を並べてくる。

すらっとした長身を持つススムと肩を並べると自分が一回り小さく見えることだろう。
彼は180ほどあり、日本人の平均身長を軽々と越している男なのだから。

170ある自分でさえ、彼と肩を並べるとやけに小さく見える。
自分も彼ほど身長が欲しかった、ケンは切に思って仕方が無い。

「一本いいか?」

ススムの言葉に、

「どうぞ」

ケンはセブンスターで良ければと箱を差し出す。
一本抜きながらススムは再度質問を投げ掛けてくる。考え事でもしていたのか、と。


含みある質問にケンは愛想笑いで返す。
とっくに気付いているのだろう。自分の抱く気鬱の原因を。

隠しても一緒だと踏み、ケンは間を置いて答える。


「未練がましいだけですよ。どっかの誰かさんのことを、おれは未練がましく思っている。大丈夫です、チームに支障は出さないつもりですから。出すつもりなら、おれはチームを抜けますよ」

「ヤマトがその前に止めるだろ。チームにお前は必要な存在なんだから」


火を渡すよう言われ、ケンは百円ライターを取り出し火を点す。
そのままススムの銜えている煙草の先端を焙ってやった。

「悪いな」

ススムは目尻を下げ、ケンの肩に肘を置く。

「ヤマトの奴、近頃のお前を気に掛けていたぞ。元気のないお前をな。あまりにも元気がないようなら個別に呼び出すつもりだろうな」

「支障が出るからでしょうか?」


「それは勿論だがヤマト自身も心配なんだろ。あいつ、ああ見えて仲間思いだからな。だから、じぶん達も奴について行く。荒川のことはよく知らないが、きっとヤツにはない部分にじぶん達は惹かれたんだ」


普段はゲームだの何だの言って喧嘩を楽しむ男なのに、憮然と息をつくススムの表情は浮かない。副リーダーとして苦労しているのだろう。




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あきゅろす。
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