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09-36



ヨウの言葉に利二は微笑を返し、会釈して今度こそ歩み出す。

先程と違い、足取りも気持ちも軽かった。 

「いーつき! 俺はテメェが羨ましいぜ」 

瞠目。
振り返る間もなく、ヨウは声音を張って言葉を続けた。


「ケイは俺等に一線引くこと多いけど、テメェには一線も何もねぇ。舎兄に一線引いて、ダチのテメェに何もないって嫉妬するぜ。ケイは誰よりもテメェのことを必要としているぞ」 


笑声を含みながら不良は来た道を戻って行く。

足を止めて去るヨウの背を恍惚に見つめていた利二は、小さなちいさな微苦笑を零した。

あの不良はお互い様と言ってくれているのだろうか。つくづく器の大きい不良だ。


本当は先程の言葉で認めている。友人に相応しい舎兄だって。

あんなにクサイ、そして真摯な答えを導き出す不良なのだ。癪だから、まだ口に出して言ってやらないが、荒川庸一は田山圭太に相応しい舎兄だ。

でも今はまだ言ってやらない。言ってやらないのだ。

悔しい気持ちを噛み締めたのだ。

それくらいの意地悪は許して欲しい。


ブレザーのポケットに突っ込んでいた携帯が震える。

振動の時間を把握する限り、着信のようだ。

バイト先からだろうか? 今日はバイトは休みだが……首を傾げて携帯を取り出す。しきりに振動する携帯の画面を開けば、見慣れた名前がそこに表示されている。

眦を和らげ、利二は電話に出る。

こちらが何か言う前に、


『生きてるかぁああ!』


切迫した友人の声が鼓膜を突き破りそうになった。

やや携帯を耳元から遠ざけ、落ち着けと言葉を投げた後、再び携帯を耳につける。


『利二っ、今ヨウと一緒か? 喧嘩してねぇ? 大丈夫か?!』


捲くし立ててくる相手に余裕は無さそうだ。

「大丈夫だ」

利二が言っても聞きやしない。
タイマンでも張ったのではないかと疑念をかけて来る始末だ。

「田山。タイマンを張って自分が無事にいられるとでも? 話は終わったよ。騒動は起こしてない。安心しろ」

『ほんとだな? 遠慮せずに言っていいからな。俺、利二に何かあったらヨウにキッパリ言うつもりだから。お相手が不良でも、いざとなりゃ男を見せるぜ!』

「本当に大袈裟だな。サシで話をしただけだ。何もなかったよ。それとも、何かあったら困るのか?」

ほんの好奇心で聞いた質問に、友人は過剰的な反応を見せた。


『――当たり前だろ。俺、諸事情で友達を失くしたばっかなんだ。お前まで失ったら、どうすりゃいいんだよ。ほんとに何も無かったんだな? 大丈夫なんだな?』


利二は軽く驚いてしまう。直後、自然に笑みが零れてしまった。

ほら、そうやって友人はこんな自分を必要としてくれる。

いつもそうだ、自分を変えてくれた友人はいつだって自分を必要としてくれる。

嗚呼……くだらない嫉妬心を抱いてしまった自分が馬鹿馬鹿しく思える。


「馬鹿だな。田山、さっきも言っただろ? 田山が不良と関わっても、お前自身が不良になっても、どんな目に遭っていても、自分は離れていかないさ」


小・中学時代、ドライな一面ばかり見せて周囲から距離を置かれていた。

自分自身も他人と関わりも持たなかった。内心、ずっと孤独感を抱いてたのにそれを誰にも出せなかった。


けれど高校で出逢ったひとりの男子生徒が、自分自身と取り巻く環境を変えてくれた。
他人と喋る事が苦手で、淡々としか喋れないツマラナイ人間を面白いと言ってくれた。


――目を閉じれば思い出す。


『え? 利二って喋る事が苦手なのか? ンなの絶対嘘だろ。いっつもドライすぐるツッコミをかましてくるくせに! 俺、クールぶっているツッコミ地味くんだとばかり思っていたんだけど。一緒にいて楽しいけどな。ってことはあれだな、俺の見る目があるってことだよな?』


『逆だろ。田山は見る目が無い』


『そーんなことねぇって。冷静ツッコミをゲットした俺は超見る目がある! これからも同じ地味組としてひっそり生きていこうな。地味は地味とつるむのが一番だ。利二もっと自分に自信持ってもいいのにな。口開けば面白いんだし』


おかしそうに笑ってくる、笑顔を向けてくる、居場所を作ってくれる友人。
こんな自分でも必要としてくれた。今もそう、必要としてくれる。

あの時、向けられた言葉に自分は小さく綻び、



「本当に馬鹿だな、田山は。できることはしてやりたい。それくらいのカッコをつけたい。そう言っただろ?」



今この瞬間も、友人の言葉に綻ぶ自分がいる。いるのだ。





to be continued...




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あきゅろす。
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