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09-35








――変わる契機をくれた友人が離れていくかもしれない。


不良と関わり始めたケイの様子を常に見守っていた利二は心の隅で翳を抱いていた。

同時期、荒川庸一が友人に疑念を持つ。
ショックと共に腹立たしくて仕方がなかった。辛い小中時代を送っていた利二にとって、ケイはようやく出逢えた心許せる友人なのだ。

そんな友人を当然のように奪い、有意義な時間を過ごしていたくせに、何かあれば糸も容易く疑念を掛ける。

腹立たしく思えた。
疑いを掛けられた友人のことは勿論だが、醜い嫉妬心が爆ぜた。

だから利二はヨウに対して必要以上のことを言ったのだ。

彼の仲間の前で舎兄失格だと。


後先考えず、はっきり、そして感情のままに吐き捨てたのだ。
言ったことに悔いはないが一抹の反省を抱いている。何処かで言い過ぎたと自覚はしていた。

しかし止めようがなかったのだ。

すべて本音だからこそ、疑念を抱いた舎兄にぶつけるしか術はなかった。


今も何処かで嫉妬心が渦巻いている。
何も恋愛感情だけに嫉妬心が芽生えるなんて思わない。

誰かはその長けた能力に嫉妬し、誰かはその周囲を魅了する美貌に嫉妬し、誰かはその誰からも愛される人気に嫉妬する。

同じように絡み合う友情にだって嫉妬というものは存在すると思っている。

利二はそんな醜い嫉妬心に駆られてしまったのだ。口が裂けても友人には言えないが。


「田山は、自分を変えてくれた。だから、当然のように隣に立っている貴方が羨ましくて堪らないんですよ」


現実に返った利二は苦々しい笑みを浮かべ、肩を竦める。


「必要以上にあいつと関わろうとするのは、何処かで繋ぎ止めたい自分がいるのかもしれません。自分を必要としてくれたあいつを、誰よりも必要としているのは結局自分なのだと思います」


カッコつけるふりをして、友人を助けるつもりをして、本当はすべて自分のためかもしれない。

冷静に自己分析した利二はまた一つ自嘲を零し、目前の不良に視線を投げた。

「貴方にとって田山は必要な存在ですか?」

問い掛けると、「ああ。必要だ」間髪容れずに不良は返事する。
それは能力的な意味合いか、はたまた人数を補うためか、質問を重ねると彼は意を込めて答えた。

「んにゃ。きっと五木と同じ理由だ。あいつとつるんでいてオモレェ。舎兄弟の前に俺達はダチだから」

微かに利二は表情を崩す。


「田山の努力を見てくれさえすれば、自分は何も言うことはありません。今は貴方を舎兄だと認めませんが、認めたくもありませんが……いつか、貴方を舎兄だと認めたい。それもまた本音です。当ってしまい、すみませんでした」


嫉妬心をぶつけてしまったことを謝罪し、利二はヨウに背を向けて歩き出す。

キョトン顔の不良が素っ頓狂な声を上げ、前に回ってくる。

まだ何か用があるのかと首を傾げる利二に、

「俺。まだ何も言ってねぇよ!」

とイケメン不良。
自分だけ言ってトンズラするなとツッコんできた。

一息つき、彼は真っ直ぐ見据えてくる利二に断言してくる。もう舎弟を疑わない、と。


「どんなことがあっても舎弟を誰よりも信じる。俺はそう決めた。それが舎兄のできるってことだって気付いた。俺は馬鹿だから、喧嘩以外ろくなことはできねぇ。ケイみてぇにチャリや土地勘に長けているわけでもねぇし、頭使うのも得意じゃねえ。寧ろ、考えて行動するっつーのは苦手だ。そのことでチームにも迷惑を掛けている。ケイにも迷惑掛けている。俺は手前の思う以上に欠点だらけの舎兄だって気付いた」


そんなケイが自分をサポートできるほどの力量を持っているのは、利二の言うとおり、ケイが陰で並々ならぬ努力をしてきたからだとヨウ。

自分もケイも欠点だらけの舎兄弟だが、決定的に違う箇所がある。

それは手前の欠点を改善しなかったところ。
ケイは己の欠点を他の何かでカバーしようとしていたのだ。

おかげで自分はケイに助けられる場面が多い。
文字通り、ケイは荒川庸一の“舎弟”として顔が立ってきた。ケイは気付いていないだろうが、“舎弟”が板についてきた。


「五木、テメェに言われて俺、気付いた。馬鹿な舎兄の俺でもできること……やっと気付いたんだ。俺はもう二度とケイを疑わねぇ。俺を信じてついてきてくれるあいつを、俺は誰よりも信じる。それこそ仲間が疑いを掛けても、俺はあいつを最後の最後まで信じようと思う。それがダチの……んにゃ、俺なりの舎兄が舎弟にできることだ。ケイの一番のダチのテメェに、どーしてもこれを言っときたかったんだ。俺がこれに気付いたのは五木、テメェのおかげだから」


だから追って来たのだとヨウは柔らかに綻ぶ。
静聴していた利二は軽く目を閉じ、ゆっくりと笑声を零して目を開けた。「それを聞いて安心しました」素直な気持ちを告げる。

すると不良がこんなことを申し出てきた。


「五木、テメェさ。俺等のチームに正式に入らね?」


利二は面食らってしまう。
まさかこの場面でスカウトされるとは思いもしなかった。

「俺たちに手ぇ貸してくれてるじゃんか?」

ちゃんと仲間に紹介したいし、チームとして、そしてダチとしてつるんでみたいとヨウが口角を緩める。

なにより、自分に対して真っ向から意見する度胸を持っているところが気に入った。それがこれからチームにとってもプラスとなるだろう。ヨウは熱弁した。

不思議な奴だと利二は思ってならない。

たった今、相手に対して辛らつな言葉や醜い感情を曝したというのに不良はもろともしない。


(――ああ、そうか)


この寛大さがチームの頭として皆に慕われる理由か。
不良のくせに不良らしくない奴だと利二は思う。


「申し出は嬉しいですが、遠慮させて頂きます。貴方のチームに入れば、今の自分の役目が消えてしまいますから。自分の役目は貴方達にこっそりと情報を提供すること。チームメートじゃないからこそ、手に入る情報があると思いませんか? 自分は陰から田山の、そして貴方のチームをサポートしようと思いますよ」


「そっか……んじゃ仕方ねぇな。けどよ、今度チームメートに紹介させろよな? なんたってお前は自分達のチームに手を貸し、堂々意見してくれる地味くん。紹介しないと罰が当たりそうだ。なにより、いつか舎兄と認めてもらわないと」




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あきゅろす。
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