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09-34






元々人付き合いが上手くなかった利二は他人と上手く喋れる方ではなかったし、性格もドライだった。

会話も簡単な言葉で済ますものだから、小・中学時代の同級生から無愛想で素っ気無い奴だと思われていたのだ。

また利二自身も小学低学年時代にハブられたという苦々しい思い出があり、それがトラウマとなっている故に必要最低限の付き合いさえやればいいと思っていた。

誰からも愛想のない奴だと思われたが、誰かと繋がって傷付くよりマシだと考えていた。


しかし、利二は片隅で孤独感を抱いていた。

上辺ばかりの付き合いに飽き飽きする自分がいたのだ。今の生活に、人生そのものに、不満足している自分がいた。


そんな時に出逢った田山圭太という男。


話す契機を持ったのは体育でのことだ。

体力測定をするために嫌々二人ペアを作らされたのだが、その時のペアが田山圭太だった。入学したばかりだったし、向こうも多くの友人を作ろうと思っているのか、友好的に話し掛けてくれた。が、此方は持ち前のドライな面が全面的に出ていた。

当時を振り返ると、自分はとても素っ気無かった。

彼が自分の名を聞いた時のやり取りを思い出す。

『なあ、五木の下の名前“利二”ってなんて言うの? ……り……に? ん? りじ?』

『としじ』

『へー。利二……読めなかった。漢字ってムズイなぁ。んじゃあ利二でいいか?』

『べつにどうとでも』

そうやって素っ気無く対応していたのだが、それでも彼は気にすることなく話し掛けてきた。

正直に言うと鬱陶しいと思った。

しかし、上辺の付き合いは大切だ。
短くも長い三年間、学校生活を送るのだから会話程度の友人は必要だと適当に応対。本当に淡々とした会話程度で、あの時は終わった。弾んだ会話など無かった気がする。


その日の放課後、再び彼と話す機会を手にする。


あれは帰宅している途中だった。突然夕立に襲われ、傘を持って来ていなかった利二は学校から出られず、靴箱前でぼんやりと雨が止むのを待っていた。

丁度田山圭太も傘を持って来ていなかったらしく、偶然そこでばったりと顔を合わす。

愛想も畜生もない自分と会話した生徒は大抵、会話が弾まないからと自分の存在を避け、無視してくれるのだが、『利二じゃん』彼は気さくに声を掛けてきた。

変わった奴だと思った。

話し掛けられたことに驚いている利二に気付かず、彼は酷い雨だよな、と空を仰いでぼやきを零す。

チャリ通をしている彼もまた傘を持っておらず、雨が止むのを待つしかなかったのだ。
二人でぼんやりと雨が止むのを待ちながら、暇潰しに淡々と会話を繰り広げた。

どんな会話をしたか覚えてはいないが、彼が不意に言った言葉を、今でも覚えている。

『利二ってさ、喋ると結構面白い奴だな』

『自分が?』

素で驚いたのを覚えている。面白いなど言われたこともなかったのだ。
しかし彼は建前でなく本音で言うのだ。面白い、と。

『だって俺との会話に冷静なツッコミ入れてくるからさ。最初は超クールな奴なのかなぁと思っていたけど意外とツッコむんだな、利二って。もっと喋ればいいのに。面白いんだから』

勿体無い、彼はそう言って笑ってきた。

簡単な会話を繰り返す自分を、彼は一緒にいて面白いと言ってくれた。
こんな自分でも誰かに必要とされているようで、ただただ嬉しかったことを覚えている。久しぶりに学校生活が色付いた気がした。


そしてそれはその場限りのことではなく、翌日から毎日のように話し掛けてくれた。

昼食を一緒に食べようと誘ってくれたのも彼からだった。
田山圭太には既に一緒に食べる友達がいたのだが、彼は自分を紹介してくれた。

「冷静ツッコミ担当」

奇妙な紹介文で光喜や透に自分を紹介してくれた。
彼を含む紹介してくれた二人の会話は最初からぶっ飛んでいた。


それに対して意見すると、彼等は“ドライなツッコミ”と捉え、自分を輪に入れて会話を広げてくれる。

会話の苦手だった利二にとって、初めての体験であり、このような会話が自分にもできるのだと心が穏やかになった。

こんな自分を受け入れてくれる奴等がいるのだと初めて知った。常に己を苛んでいた孤独感が拭えた。


誰よりも自分と会話してくれたのは、やっぱり彼、田山圭太だった。

勉強が分からないと泣きついてくる彼に数学を教えたり、当たり前のように世間話を振られたり、それに返したり、また自分からも話し掛けるようになったり。


家が窮屈だと彼に愚痴を零したこともある。
何となくだが家が窮屈に思える。そう愚痴を零すと、ケイに『利二の家って泊まりOK?』と聞かれた。

驚く間もなく、『俺の家に泊まりに来ないか?』家が窮屈なら遊びに来いよ。来てくれたら俺も楽しいからさ。ケイは笑声交じりに誘ってきてくれた。

泊まりの誘いなんて初めてだったものだから、やけに嬉しく思う自分がいて、『迷惑にならないのか?』どぎまぎしながら聞いたものだ。

『大歓迎!』

彼はそうやって自分自身を受け入れてくれた。


彼のおかげで自分は学校生活に色が付いた。

彼が自分に話し掛け(その度に自分の素っ気無い部分をクールと言ってくれ)、

彼が自分に面白いと言い(自分の簡単な言葉をツッコミだと笑い)、

彼が自分に友達を紹介してくれ(冷静なツッコミ担当ゲットだぜと光喜や透に紹介してくれ)、

彼が自分に泊まりに来いと誘ってくれ(自分が来てくれたら嬉しいと笑ってくれ)、


誰よりも彼が自分を必要としてくれた(昨日も今日も明日も当たり前に呼んで名前を呼んでくれる奴がいる)。


今までドライな学校生活を送っていた。

どことなく孤独感を抱きながら毎日を送っていた自分にとって、今の学校生活が一番楽しいのだ。


あの日あの時あの場所で、彼とペアになり、自分に話し掛けてくれたことがすべての始まりだった。

あんなに人間関係にドライだった自分が、こうやって誰かに関わり身を案ずる。


そんなこと一度たりともなかったのに。

彼が自分を必要としてくれるもんだから、自分も変わらざるを得なくなった。



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あきゅろす。
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