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09-32







「――五木、なあ、いーつき。テメェ、歩くの早ぇって。少しペース落とせよ」

「………」

「ちと喋ろうって。べつにタイマンを張りに来てんじゃねえんだし」

「………」


「五木。このままだと俺、テメェの家にまでついてっちまうぞ。なーあ」


さっさかと早足で帰路を歩いていた利二は背後を一瞥して苦い顔を作る。

無視をして先を歩くと、

「五木」

かの有名な不良が肩を並べてきた。
振り払うように早足で歩くのだが、不良はいつまで経ってもついて来る。早足の速度を上げる。

この速度はもはや、駆け足レベルと言っても過言ではない。


「うっし。そっちがその気なら、俺はテメェの家に乗り込む。不良を舐めんなよ!」


俺から逃げられると思ったら大間違いだとイケメン不良。
絶対に捕まえて、シカトをやめさせると発言するヨウに利二はまた渋い顔を作った。

相手と話したくない一方で、このまま彼を無視し続けることには無理があると思い改める。

腐っても相手は不良、あまり無視をしていると殴られてしまいそうだ。
喧嘩を吹っ掛けられてしまったら一巻の終わり。病院送りは免れない。

しかも家にまでついて……それだけは絶対に困る。相手が居座る可能性大ではないか!

あからさま無視をしていた利二だが幾度も話し掛けられてしまえば無視もできず、通りの端に寄ると足を止めて小さく溜息をついた。

「やっと止まった」

観念したかと笑声を漏らす不良に顧みて、肩を並べてくるヨウに話を切り出す。

「一つ、謝罪をさせて下さい」

「ん?」

首を傾げてキョトン顔を作るイケメン。


「自分、貴方に八つ当たりをしました。そのことに対しては“真摯”に謝罪したいと思います」


相手の表情が険しくなる。


「五木……“紳士”に謝罪ってどーするんだよ? ジェントルマンみてぇに謝罪すんのか? イミフなんだけど」


カァー、カァー。 
街向こうからカラスの呆れた鳴き声が聞こえてくる。

利二は見事に固まり、素でボケてくるヨウはしきりに首を傾げた。わざとボケているようではないようだ。一応、念のために尋ねる。

「わざとですか?」「何が?」「いえ、それです」「え、どれ?」「……」「五木、ワケわっかんねぇよ」

そうかそうか、利二は心底納得した。

“しんし”が別の意味に変換されている。
不良相手に難しい言葉を使うものではない。

そういえば荒川庸一はお頭は良い方ではなかったっけ。

友人も言っていた。


あまりお頭は宜しくないと。


補習や追試の常連になっているようだし……ここは真摯ではなく、純粋に謝罪すると言った方が相手には通じるのだろうか?

本気で脱力する利二は分かりやすく、

「純粋に謝るということです」

こめかみに手を当てて吐息をつく。

「なるほどな」

ポンッと手を叩くヨウはジェントルマン風謝罪は純粋に謝ることか、と大いに納得している様子。
もはや、訂正や説明をする気力も出ない。無視をして話を続けることにした。



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あきゅろす。
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