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09-30




「殴り飛ばすのは今度からだ。俺もヨウを裏切ろうとしたし、ヨウは俺を疑おうとした。でも、もう、お互いそれはしないと約束しよう。破ったその時は一発パンチ。それでどうだ? ヨウ」


同意を求めると、柔らかなに綻んで肯定の返事をしてきてくれた。

俺の言葉を受け取ってくれたみたいだ。

「しゃーねぇな」

今回はケイに免じて見逃してやる、ヨウは上から目線におどけた。
どんだけ俺に殴られたいのよお前。Mか! イケメンが台無しになるまで殴ってもいいなら、やってやってもいいけど?

舎兄に笑みを返すとブレザーのポケットから携帯を取り出した。

アドレス帳を開いて健太のアドレスを呼び出す。
絶交宣言をしたその日にアドレスを消しちまおうと思っていたんだけど、躊躇いが勝っちまって今の今まで消せなかった。


だけどもう迷いはない。

俺は健太と絶交宣言したこの場所、高架線の下に立っていて、隣には舎兄がいて、ひとりじゃなくて――。


「ヨウ。俺、此処で健太と絶交したんだ。その後、あの川に落とされた」


切り出した話題に舎兄が「そうか」相槌を打ってくれる。気遣ってくれているようで、言葉は控えている。

そんなヨウに俺の決意を教えた。
此処に来た一番の理由は“気持ちの整理つけたい”だ。

そして、それだけじゃない。俺は前に進む決意を固めた。


「ヨウ。俺は、やっぱり健太も大事なんだ。お前達のことも大事だけど、あいつと過ごした三年間は簡単に消えない。だから俺は探すことにした。これから先、健太とどう接していこうか、自分なりに答えを出していこうと思う。チームでは敵同士だろうけど、これはこれ、それはそれ。俺はあいつのことをまだ友達だと思っていたい」


そう思う俺は未練がましい男なのかもしれないけどさ。
苦笑いを零す諦めの悪い舎弟に対して、「お前が決めたんだろ?」ならいいじゃないか。舎兄が背中を押してくれる。


「俺をヨウは蔑むか? 敵方のチームをまだダチだと思っている俺をさ」

「馬鹿か」


ヨウが素っ気無く悪態をついて、長い足で軽くケツを叩いてくる。


「今、お前を信じるっつったのに、なんで俺が蔑まないといけねぇんだよ。テメェがどんな道を選ぼうと、俺はケイを信じているさ……そのアドレスはダチのだろ? 消すのか?」


軽く人の携帯を覗き込んでくる舎兄に首肯する。 


「消す。未練がましく残してたけど、もういいや」

「無理しなくてもいいんじゃね? 残しておいて損はねぇだろ?」

「それじゃあ仲の良かった中学時代の過去に縋るばっかりだろ? 俺は自力で出した答えを踏まえて、これからあいつと接していきたいんだ。機会があればアドレス帳にもっかい登録するつもりだよ」


「そうか。ならもう、止めねぇよ。ケイが決めたことだ」


俺の首に腕を回してくる舎兄に一笑して、携帯を操作していく。



『削除しますか?』



はい、いいえ。



――はい。




『山田健太を削除しました』




俺の携帯のアドレス帳から、健太のアドレスが瞬く間に消える。

だけど健太との思い出や中学時代に築き上げてきた関係、そして今も友達だと思っている気持ち。絶交宣言した胸の痛みは消えない。絶対に消えないからな、健太。


まだ健太との思い出に錠は掛けられそうにないし、俺なりにどうケジメをつけていこうか、まったくの手探り状態だけど、健太にこれだけは言いたい。


それはあの時、直接あいつに言えなかったこと。


健太、今までありがとう。今のお前を選べなくてごめん。

でも俺は未だにどこかでお前のことを友達だと思っている。
お前と築いた中学時代の関係、あの関係は確かに存在していた。あの関係に後悔はなかったよ。


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あきゅろす。
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