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09-29





ピッ、ピッ、ピッ、ポチャン――。




水面を跳ねながら小石は川に沈んでいく。

ヨウはまた小石を拾って川に向かって投げた。

今度は水面を跳ねることなく、水音を立てながら川に沈んでいく。一連の流れを見守りながらヨウはブレザーのポケットに手を突っ込んだ。

金髪が穏やかに吹く風によって靡く。それは大層絵になる光景だった。恍惚に見つめてしまう。


「俺はもう二度と舎弟を疑わねぇ。誰がなんと言おうと、テメェを信じることに決めた。例えば仲間が疑念を抱いても、俺は最後の最後まで舎弟を信じる。舎弟が舎兄を信じて最後までついて行くっつったんだ。俺も舎弟を信じる抜くことにした。喧嘩しか取り得ねぇ俺だからこそ、舎兄が舎弟にできることは誰より手前の舎弟を信じることだって気付いた」


「ヨウ……」


「ケイ。俺はテメェに約束する。何が遭っても信じ抜くって。その第一歩として俺を殴ってくれねぇ? 俺なりの詫びをさせて欲しい」


振り返ったヨウが俺に笑顔を向けてくる。
疑った詫びを此処でさせて欲しい、そう言ってくるイケメン不良に俺は目を点にする他無かった。

だってよ? 俺がイケメンを、しかも不良を殴れるわけがねぇだろ?

ヨウみたいなイケメンくん殴ってみなさいな。
俺は全国の日本女子プラスヨウ信者を敵に回すことになるだろうよ! 俺がヨウに殴られる分には、誰も何も言わないだろうけど、ヨウが俺に殴られる分には絶対どっかからか抗議があがるって!


けれど、ヨウはいたく真面目に「本気できてくれ」と頼んでくる。


ったくもう……毎度のことながら勝手だな、ヨウの奴も。殴っちまったら本気で女子達(とヨウ信者)から敵視されちまうのに。そんなに俺をヨウファンに殺させたいか? なあ?

それに……俺にもなんか言わせろって。お前の気持ち聞いて、俺だって思うことがあるんだからさ。


「よっこらっしょっと」


腰を上げてヨウの隣に並ぶ。

ヨウがしたように、俺も小石を拾って川に向かって投げた。
腕が悪いのか、小石は水面を跳ねることなく沈んでいった。それを見送った後、俺はヨウに向かって言葉を返す。「やだね」と。  

俺が不良に、いや、ヨウに対して申し出を拒絶したの初めてかもしれない。
結構勇気を出して拒絶したんだぜ? 田山圭太の勇気度は今、100%でい! 馬鹿も程ほどに話を続けることにする。


「俺はヨウを殴らない。此処で殴っちまったら、俺だってヨウに殴られるから。ヨウ、憶えているか? 俺が日賀野から舎弟に誘われた日のこと。あの日、俺は日賀野の誘いに危うく乗りそうになった。
状況はどうあれ、俺はお前を裏切ろうとした。
でもお前は言ってくれた。“誘いに乗らなかっただろ?”そう励まして、弱い俺を咎めなかった。だから俺もお前を咎めない。確かに疑ったかもしれないけど、最終的にヨウは俺を信じてくれたじゃないか。殴る必要なんてないと思う。言うなればお互い様、じゃね?」


それに、俺はヨウに感謝しているんだ。

今回のことで俺は皆に迷惑ばかり掛けた。

なにより心配させた。
向こうのチームに友達がいるからと嘆いて、卑屈になって、苦言して……心折れそうになって。そんな時にヨウが俺を探しに来てくれた。弱音を聞いてくれた。俺の支えになってくれた。


「ヨウ、お前は思っている以上に舎兄としてやってくれてるよ。少なくとも俺にはそう感じている。事情を聴いて、疑われた現実は確かに悲しいけどさ。お前、今こうやって俺を信じてくれるっつった。それで十分だよ、俺は」


「俺はそれじゃ気が済まないんだよ」


「だから、それじゃ俺もぶっ飛ばされるんだって。お前は俺が一線引こうとした時、それに気付いて止めてくれた。もし止めてくれなかったら、俺は……それこそチームを抜けるという選択をしていたかもしれない。言っただろう? 俺は弱い。自分が信じられないことがある、と」


肩を並べる舎兄に視線を投げる。

目を細めてくるヨウは肩を竦め、


「なら俺が手前の分まで信じてやるさ」


ケイは弱くないとぶっきら棒に返事する。舎兄なりのやさしさに口角を緩ませる。



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