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09-28


愕然とする俺は危うく手に持っていた割り箸を落としそうになった。

それだけ驚きが大きかったんだ。ヨウはポツポツ話を続ける。


「あの時の五木、ケイと喧嘩した並みに迫力があった。相手が誰であろうと、伸してやる殺意を抱いていた。実はさ、ケイの家に見舞いに行った日。俺とシズは五木に会っているんだ。ケイの行方を知るために。その時、俺達がケイのことを疑っているって知って、五木に一喝されたんだ。そして後日、五木は俺達の元を訪れてこう聞いてきた。

『荒川さん。貴方は先日、田山を疑っていましたが……正直に答えて下さい。貴方は田山をどう思ってるのですか?』

どう思っているか、俺は普通にダチで舎弟と答えた。五木はそれに関しちゃ何も言わなかった。
けど次の問い掛け、『今まで田山の何を見てきたんですか?』に、何を見てきただろうな……なっかなか答えられない俺がそう呟いた瞬間、五木は激怒。怒鳴りはしなかったけど、静かに怒り狂ったケイのことを舐めていると悪態ついてきた」


『田山は貴方の舎弟になった日から、今までずっと貴方の舎弟として何が出来るか、自分なりに考えて行動を起こしてきました。あいつは喧嘩なんてできませんし、不良でもありません。傍から見ればダサい奴と思われがちです。だけど舎弟として、些細な事でも真剣に考えて行動を起こしている。貴方の足として、舎兄の顔に泥を塗らないようにして、苦悩しながらずっと貴方の舎弟をしてきた。

自分はその姿を近くで見ていたのでよく知っています。
舎弟のことで自分と喧嘩したこともありましたし、一方で相談にも乗ってきました。無理して馬鹿して怪我してっ……見ていられない時だって多々ありましたよ。

今回だってそうだ。田山は無理に無理を重ねた。詳しい事情は知りませんが、現に田山は体調を崩している。それでも田山は貴方達との友情を取っている。

なのに貴方は田山を疑った。数日、連絡が取れない、それだけの理由で信じることさえしなかった。田山の努力は何だったのか……これじゃあいつの努力が報われません。田山の努力さえも見えていなかったのなら、貴方は舎兄失格だ。常に舎弟として何ができるか考えていた田山に、貴方は相応しくない。

自分は今の貴方を田山の舎兄だとは認めません。認める価値もありません。今の貴方では田山の舎兄に向いてません――そうやってあいつを苦しめるだけなら、いっそ舎兄弟を白紙にしてチームから抜けさせてやって下さい。それがあいつのためです。努力している田山があまりにも哀れです。貴方の舎弟にいる価値もない』



「――すげかった、あの時の五木。あんなにはっきりと俺に物を言うなんて……よっぽど腹立たしかったんだな、五木。憤怒した五木は言うだけ言って帰っちまった。あれから一度も口をきいていないし、向こうが極端に俺を避けちまっているし。
さっきもそうだ。俺が教室に入っても、素知らぬ顔で文庫本を読んでやがった。どこ吹く風っつーの? 俺のこと無視だぜ、総無視。五木って地味のクセに、意外と男気のある奴なんだなって分かった。少し腹が立ったけど、全部本当のことだった。五木の言うとおりだった」



………ど、どえりゃーことになっているじゃあーりませんか。

利二、不良相手にそんな騒動を起こしたのかよ。あいつのことだから不良に物を言うだけでも恐くて仕方が無かっただろうに。

でも俺をそうやって庇ってくれたんだな、あいつ。俺がいつも相談するから……利二は誰よりも心配性だもんな。

後で利二と話してみよう。まずはヨウをどうにかしないと。

食いかけのコンビニ弁に蓋をしながら、利二の騒動を詫びた。

原因は間接的にでも俺にあるのだから。


「ごめん、ヨウ。利二は……俺のことを心配してくれるが故にそんなことを言ったんだと思う。でもな、ヨウ。俺はヨウが舎兄に相応しくないなんて思ったことないよ。今回のことだって仕方が無いじゃないか。俺が連を絡入れなかったのが悪いんだし」


「いや」


ヨウは空になったコンビニ弁を無造作にビニール袋へと入れ込む。俺の詫びを受け取ってくれなかった。 

舎兄は腰を上げて、二、三歩、前に出るとキラキラと太陽光の反射で輝く川面を見つめた。俺はそんな舎兄を見上げるしか術を知らない。


「そうやって俺を甘やかしてくれるから、俺は手前に結構甘くなっていた。前々から自覚はあった。俺はテメェにばかり頼っている節がある。ケイ、テメェは舎弟になった日から俺に『舎弟って何すりゃいい?』と度々聞いてきたな」


「う、うん。聞いたけど」


「俺はその時、その場その場で適当な返事をしていたと思う。そんでもテメェは舎弟として、何をすべきか、何が自分にできるか、いつも行動していた。考えてみりゃいつもそうだった。舎弟問題が起きても、テメェは舎弟として何をするべきか、いつも念頭に置いてた。舎兄弟になったのはノリ。
だから俺はテメェみたいに舎兄として何が出来るか、一度だって真剣に考えたことはなかった。テメェとは真逆だな。俺はどっかで思っていたのかもしれねぇ。舎兄弟っつーのは舎弟が常に何かしてくれるもんだろ。いざとなりゃ喧嘩で前に出るくれぇだろって」


語り部の背中を見つめる。

プライドの高いイケメン男が俺に自分の嫌な一面の心境を語るだなんて不思議な光景だ。


「今回が初めてだった。舎兄として何をすべきか、こんなにも考えたのは。俺なりに真剣に考えてみたよ。正直、俺は喧嘩くれぇしか取り得がねぇ。何ができるか……頭を捻っても出てきやしねぇ。取り敢えず俺は前にテメェに背中を預けるっつったから、今度はテメェが俺に背中を預けろっつー考えが浮かんだ。けど、なんかしっくりこねぇ。ンなの当たり前の領域だって思ったんだ。そんな時、五木に言われて気付いた」


地面に転がっている小石を拾ったヨウは軽くそれを投げて掌でキャッチ、投げてはキャッチ、投げてはキャッチ。


刹那、川に向かって投げた。




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