09-13 程なくして浩介が戻って来る。 自分達の麦茶が減っていることに気付き、わざわざ茶の入った容器を冷蔵庫から取り出し始めた。気の利く小学生である。 しかし、しかしだ。 自分達の目的はケイなのだ……それともこれも舎弟の策略だったりするのだろうか? 弟を使って此方をうんぬん翻弄しているのだろうか? 「浩介。兄ちゃんに会えそうか?」 何気なく話題を振ると、「んー」浩介が眉根を寄せながら麦茶を注ぎ足す。 自分の分のコップにも麦茶を注ぎ、「辛そうだった。もうちょっと待っててあげて」と返事した。 「さっきまで落ち着いていたのに。兄ちゃん、今回は凄く酷いんだ。ごめんね、兄ちゃん達、せっかく来てくれたのに」 「そんなに酷い……のか? 携帯にメールを入れたのだが……それも見れないほどに?」 シズの問いにうんっと浩介は頷く。 「だって兄ちゃん。入院の危機だよ」 爆弾発言にヨウは茶を噴き出し、シズは食べていたドラ焼きを気道に入れしまい盛大に咽てしまった。 目を白黒にさせ、「入院?!」血相を返る二人に、浩介がまたうんっと頷く。 「兄ちゃん、ご飯も全然食べれないんだ。寝込んじゃっているし……お母さんもあんまり酷いなら検査入院が必要かもって」 ヨウとシズはごくりと口内のものを嚥下し、おずおずと視線を合わせる。 「(おい入院だってよシズ。そんなに酷いのか、ケイの奴。精神崩壊を起こしたのか?!)」 「(……分からないが……これは非常事態だな)」 無理をし過ぎて爆発した結果が精神崩壊だなんて。そんなに山田健太との友情は厚かったのだろうか! これをどうやってリーダーの自分達が癒せば良いのだろう。カウセリングに関してはド素人なのだ。 さすがに病んだメンタル面に関しては安易に触れられない。医者に任せるべきなのだろうか。顔を合わせて、なんと声を掛ければいいのだろう? 頭を悩ませる不良達が大変な誤解をしていることに浩介が知るよしもない。 「そ、そうだ浩介。お前、山田健太って知っているか?」 とりあえず落ち着こうと、ヨウが話題をかえる。 山田健太と仲が良かったということは、少なくとも家に連れてきている筈。兄ちゃんべったりの浩介なら顔見知りではないだろうか? 案の定、浩介は山田健太を知っていた。 「健兄ちゃんは面白いよ!」 まるで兄ちゃんみたいだと楽しそうに話してくれる。 つまるところ、ノリが良いらしく、ケイと似たところが多いようだ。 「健兄ちゃん、よく泊まりに来ていたよ。一緒にゲームして遊んでもらっていたんだ。兄ちゃんと仲が良かったけど、最近は家に来てくれないなぁ。学校が違うからしょうがないって兄ちゃんは言っていたっけ」 「そうか。山田健太とケイはそんなに仲が良かったのか」 するとぱちくりと瞬き、浩介は不思議そうな顔を作る。 「庸一兄ちゃんや静馬兄ちゃんも兄ちゃんと仲が良いでしょう? 最近の兄ちゃんは兄ちゃん達のことばっかりだよ。お母さん言っていた。『庸一くん達と仲良くなって高校生活がより一層楽しそう』だって。兄ちゃんは不良の兄ちゃん達が大好きなんだよ」 意表を突かれてしまう。 にこにこ顔を作る浩介だったが廊下から蚊の鳴くような声が聞こえ、腰を上げた。あの声はケイだ。 「兄ちゃん。熱は大丈夫? ん? ポカリは机に置いているよ。ゼリーは冷蔵庫だけど食べる?」 居間からひょっこりと顔を出し、廊下の向こうに呼びかけをする浩介。 熱という単語で二人は理解する。浩介の放った入院の意味を。 ああなんだ、精神崩壊を起こしていたわけではないのか。 ホッと安堵の息を吐く二人を余所に、「あんね。そっちに行っていい?」と浩介。OKの返事をもらったようで、彼がおいでおいでと手招きしてきた。 浩介の後を追うため、ヨウとシズも腰を上げた。 「体調が悪かったんだなケイ」 変な誤解を抱いてしまった。 疑ったことに悔いてしまうとヨウは自嘲し、「はやく仲間に伝えないとな」シズも決まり悪く笑う。 [*前へ][次へ#] [戻る] |