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09-12



静かな住宅街を進み、二人はケイの家を目指す。



先ほども目にした緩やかな坂をのぼると一軒家の平屋が見えてくる。

ケイの家はもう目と鼻の先だ。今度こそケイに会えれば良いが。

門の前に立った二人はアイコンタクトを取り、呼び鈴を鳴らす。待つこと数十秒、応答はない。もう一度、呼び鈴を鳴らす。

やはり応答はない。
暫しそれを繰り返していたが、うんともすんとも言わないため、溜息しか出なかった。

「やっぱ出ねぇか。くっそー、ケイの奴、家にいるような気ぃするんだけどな。ちょっと裏から覗いてみっか? ほら、庭から入ってみてさ」

「不審者だと勘違い……されないか? 不法侵入だろ」

「ちょっと見てみるだけだってすぐに出て行くから」

積極的に不法侵入を試みようとするヨウに、シズは肩を落とす。

やはりヨウは変わったようで変わっていないのかもしれない。


「あれー? そこにいるのは庸一兄ちゃんと静馬兄ちゃん?」


背後から声を掛けられる。
顧みると小型の自転車に跨った小学生が興味津々に此方を窺っていた。

その小学生に見覚えがある。ケイの弟、浩介だ。どことなく兄ソックリな容姿をしている。

「やっぱり兄ちゃん達だ!」

嬉しそうに声を上げ、浩介が自転車を降りて歩み寄ってくる。
浩介とは以前、泊まりの際に仲良くなったため自分達にとても懐いていた。

よっ、片手をあげて挨拶すると同じ動作で挨拶を返してくれる。

「こんなところで何をしているの?」

こてんと首を傾げてくる小学生に、二人は顔を見合わせてシメたと口角をつり上げる。

浩介の登場はとても都合がよい。
ケイに会えるチャンスだ。ヨウはかがんで小学生と視線を合わせた。

「浩介、家に兄ちゃんはいるか? 俺等、兄ちゃんに会いに来たんだけど」

するとこれ以上にないくらいに笑顔を作り、「遊びに来てくれたんだね!」兄ちゃんは家にいるよ、と浩介は返事した。

どうやら居留守を使っていたらしい。ケイはしっかりと家にいるようだ。

居留守を使われたということは、ケイは自分達を避けているのだろうか。

それはそれで寂しい思いがする。
思うことは多々あるが、まずはケイの身の上について聞こう。動くのはそれからだ。

二人が思った矢先、「ありがとう!」きっと兄ちゃんも喜ぶよ! 浩介が嬉しそうに頬を崩してくる。


「兄ちゃん。ここ数日、すっごく辛そうだったんだ。兄ちゃん達に会ったらきっと元気になるよ! あ、ちょっと待っててね。自転車を置いてくるから!」


車庫に自転車を仕舞ってくると浩介が駆けた。
これまたなんたる幸運だろうか。家に難なく入れそうだ。浩介さまさまである。

しかし、弟の話を聞くに、ケイはとても落ち込んでいるようだ。

兄ちゃんべったりの弟が言うのだから間違いない。

突然の訪問に向こうは度肝を抜くだろうが、これもチームのため、ケイ自身のため。今の心境を聞こうではないか。


自転車を置きに行っていた浩介が片手にビニール袋を提げて戻って来る。

パーカーのポケットから鍵を取り出し、引き戸を開けて招いてくれる弟くんに礼を告げ、二人は家に上がらせてもらう。

そのままケイの部屋に招いてくれるかと思いきや、浩介は居間に二人を招き入れ、適当に座るよう指示してきた。
ヨウ達としては一刻も早くケイに会いたいところなのだが、田山家の人間が居間にいるよう促したのだからそれに従うしかない。


「麦茶でいい?」


台所に入った浩介が飲み物を聞いてくる。

お構いなく、なのだが小学生は接待をするためにコップに麦茶を注ぎ、ポテチの入った皿とドラ焼きをお盆にのせてテーブルに並べた。

そのままビニール袋を持って廊下に出てしまう。
取り残されたヨウはそれを見つめ、途方に暮れるしかない。自分達はケイに会いたいのだが。

「んまい。のりしお」

隣でパリポリパリポリとポテチを頬張るシズに、つい拳骨を食らわせる。

「何を……するんだ」

不機嫌に唸る副リーダーに、

「能天気に食っている場合か! 俺達の目的はケイだろうが!」

ヨウは声音を張った。

「そうは言っても……折角、浩介が出してくれたんだ。食べないと……次はドラ焼き」

いそいそとドラ焼きの封を開けるシズに額を当てた。


食い意地はチーム一だ。リーダーが保証してやる。


悪態をつき、自分もポテチに手を伸ばす。ああ美味い、のりしお。この塩梅が堪らなくいい。



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あきゅろす。
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