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09-11




来た道を辿る二人は、再びケイにメールを送ってみる。『今から家に行く』と。


しかし返信は一向にやって来ない。シカトをされているのか、それとも気付いていないだけなのか。

後者の考えはないと切り捨てた。
連日に渡ってメールを送っているのだ。

ということは前者のシカトという考えしかないだろう。ケイが自分達のメールをシカトするなんてよっぽどのことだ。


はてさて、どうやったらケイに会えるか。またケイに会えなかった時の仲間内への対処法をどうするか。 


二人は淡々と話し合っていた。

仲間内に疑心が芽生えていたら、それを素早く摘まなければ。チームの輪が乱れるような事態だけは避けたい。ヤマト達に隙を突かれてしまう。

こういう時、チームで動く難しさを覚える。
ひとりが不穏な動きを見せたら、伝染したかのように仲間内に不穏が広がってしまう。単独行動にはない厄介な問題だ。

「難しいよな」

ヨウは頭の後ろで腕を組み、チームを纏める難しさを漏らす。

「ほんとにな……」

眠気を噛み締めながらシズは相槌を打った。

「その点、ヤマトはチームを纏めるのも使うのも上手かったな」

棘あるシズの独り言に、

「これから上手くなってやるよ!」

ヨウがムキになったのはその直後。

「それが余計不安なんだ……」

発言者が重々しく溜息をついた。
自分達のリーダーは後先考える事が苦手だから、皮肉を含んだご尤もな意見にヨウはぐうの音も出ない。


「最後にケイに会ったのはヨウ、お前だろ? ……どうだったんだ?」 


どう、と言われても傷付いていたしか言いようが無い。

見ていられないほど打ちひしがれていた。

あんなに弱り切ったケイは初めて見た。
利二と喧嘩した時でさえ、否、日賀野にフルボッコされた時でさえ、あんなに落ち込んだ彼を見た事は無かった。

だからこそ心配であり、不安でもあるのだ。今のケイは崩れてしまいそうなのだから。その不安が猜疑心に変わり、ヤマト達に移り気を漂わせたのではないかと心底思ってしまう。

そんなことする奴ではない。
利二に一喝されてしまい目が覚めたが……ケイへの猜疑心は心配の裏返しだと考えている。

心配ゆえにあれこれ至らんことまで考えてしまったのだ。弁解かもしれないが、冷静に自己分析をしてみると先程の猜疑心はケイの心配から。

数日間、音沙汰なしなのだ。
弱り切ったケイを最後にしているのだから、心配するなという方が無理な話で。

逆の立場だったら、ケイはどう行動していただろう?

「俺は、分かってねぇな」

「ヨウ?」


「喧嘩はできっけど、なんっつーかそれ以外のことはからっきしだ。自分の非力さを目の当たりにしているかんじ。仲間内のことだってよく理解してやれていない。しみじみ思う。ケイもそうだし、今の状況を他の仲間はどう思っているのか……全部が分からなくても、何か掴めることくれぇはしてぇのに、俺は何もできちゃない。

テメェでチームの結成をしたっつーのに色々考えさせられる。
ケイは俺のこと『背負い過ぎる直球型』って言いやがった。よく俺のことを理解しているし、よく見ている。

んじゃあ、俺はどうだろ? 五木みてぇにあいつを理解しているかっつーったらそうでもねぇし。寧ろ、五木に諌められた。舎兄のくせに何も出来てねぇや。出来ているとしたら喧嘩くらいか? 初めて舎兄として何ができるだろう。そう、考える俺がいる。舎弟問題以上に、舎兄の存在意義を考える俺がいるんだ」


「……変わったな、ヨウ」


フッとシズが笑声を漏らし、ヨウは少し変わったなと繰り返し告げてくる。

昔は状況が面白ければそれでいい。
仲間がピンチの時は手を貸して、自分の居場所を守り続けようとする奴だったのに。

ヨウは少し変わった。

単に自分の居場所を守り続けようとする奴ではなく、仲間のために率先して動くようになった。本当の意味で仲間思いになった。

今までも仲間思いだったが、それ以上にヨウは仲間のことについて親身に考えるようになった。

中学時代からの付き合いだ。ヨウの変化は手に取るようにわかる。


「響子とも度々話す……お前は変わった。いい意味で……変わった。リーダーシップ、発揮できるようになっている。思い付きでの舎兄弟だったかもしれないが……作って良かったな。舎兄弟」

「――ああ、ほんと、そう思う。舎弟問題が勃発した時はどうしようかと思ったけど、舎弟を作って本当に良かった」


だから考えるのだ。
今度は舎兄が舎弟に何をしてやれるのかを。

ケイは望んで友人と決別したわけではない。
だからこそ利二の言うとおり、舎弟は無理をして爆ぜてしまったのだろう。彼は何もかもが一杯一杯なのだ。


舎弟は自分で言っていた。
チームと一線引くところがある。それは自分の弱さから。悪い癖だということも理解している。

けれど実際、何かに直面した時、自己防衛から線を引いてしまうのだ。だったら自分にしてやれることは何か?

とりあえず、その線をまたいで消してやることが舎兄の役割なのかもしれない。


「ケイも勿論だけどよ。ハジメも……様子見している限り、あいつはあいつでケイと同じように一線引いているところがある」


仲間内のハジメも、ケイと同じように現在皆と一線引いてしまう面がある。

日賀野繋がりの不良達に奇襲を掛けられて以来、一人で思案しているところが度々見られるのだ。

思い詰めたように考え事をしている場面が多々見られる。

ハジメも自分の弱さを悟られたくなくて、仲間内に一線引いているのかもしれない。


「その線を消すことがリーダーとしての第一歩なのかもしれねぇ、シズ」


目尻を下げて同意を求めると、副リーダーは首肯した。


「ハジメのことは、自分も思っていた。あいつは以前から物思いに耽る事が多い。二人で纏めていくしかないな……リーダー」

「だな、副リーダー。ヤマト達以外にもやることは山積みだ」 


リーダーという存在は大変だ。ようやく分かってきたとヨウは笑声を漏らす。

傍らでシズは呆れ笑っていた。
楽してリーダーの仕事が務まると思っていたのだろうか、我がチームリーダーは。なんて能天気なのだろう。それがリーダーの良いところかもしれないが。



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あきゅろす。
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