09-10
◇
「田山とは、ここ数日メールもしていませんけど」
大通りの一角にある、とあるコンビニ裏口前。
ヨウとシズはケイのクラスメートであり地味友で、チームメートにとって間接的な仲間でもある五木利二の下を訪れていた。
もっとも彼の連絡先を知らず、勤めているバイト先の場所しか認知していなかったので、利二と接触できるかどうかは大きな賭けだった。
たまたまバイト中だった利二を見つけ、二人は客の振りをして彼に声を掛けた。勤務中の彼は二人の不良の出現に大いに驚いている様子だった(そして少しビビッている様子でもあった)。
頭の回転が速い利二は何かあったのだと察し、「十五分待ってもらえますか?」もうすぐ休憩だからと教えてくれる。
そのため十五分、コンビニの外で時間を潰し、利二の休憩時間を待って現在に至る。
「田山と連絡が取れなくなった?」
事情を知った利二は、眉根を顰めてしまう。
詳しい説明を求められたため、ヨウは簡潔に事情を説明した。ケイと山田健太の間柄のことを。
区切り区切りで相槌を打っていた利二は、すべての話を聞き終わると懇切丁寧に返事する。彼と連絡を取っていないため、何も知らない、と。
「そんなことがあったことさえ知りませんでした。申し訳ないですが、お力にはなれそうにないですね」
「うそだろ、五木もダメかよ。お前が一番可能性的にでかかったのに」
また手が無くなった。
ヨウは地団太を踏む。
電話も駄目、メールも駄目、訪問も駄目、地味友も駄目。
自宅の電話番号が分かればそっちに掛けるのだが、生憎誰もケイの家の電話を知らない。
再び訪れた八方塞にヨウは軽く舌を鳴らすしかなかった。ここまで来ると苛立ちが募る。
「ヤマト達か……」
シズはますます疑念を口にし始める。
ヨウ自身も強く否定できなくなりつつある。八方塞なのだ。どうしても小さな可能性に目を向けてしまうのである。
「何を言っているんですか?」
ワケが分からないとばかり利二が険しい顔を作る。
「まさか田山が向こうのチームに寝返るとでも?」
なら笑えないジョークだと彼は言い切った。
それは有り得ない事だと明言する彼の瞳には、揺るぎない意思が宿っている。
「田山は貴方達のとても友情を大切にしています。それは傍らで見守っている自分が保証しますよ。きっとメールさえもできない事情があるんだと思います。田山はカッコ付けですが、連絡を疎かにして人に心配を掛けるような奴ではありません。あまり田山を疑わないで下さい、それとも田山が信じられませんか?」
ならば今まで彼の何を見てきたのだと、彼の口調が次第次第に厳しくなる。
眼光を鋭くする利二は意外と物申す奴らしく、言葉を重ねた。
「貴方達は勘違いをしています。田山という男を。あいつは強くもなければ弱くもない。ただ、自分の範囲内で出来る限りの努力を重ねる。そういう男ですよ。
事情を聴く限り、田山は無理をし過ぎてるんだと思います。
周囲が思う以上に無理に無理を重ねて……ついに自分の中で何かが爆ぜてしまった。そんな気がします。
田山だって器用じゃない。
何かに苦しんでいる時は、周囲に気遣える余裕なんて無いんですよ。連絡を寄こすことも、チームのことを考えることも、自分がどれほど周りに心配を掛けているのかすら、まったく分からない状況なんです。あいつはきっと悩んでいるし苦しんでいる。自分達が思う以上に。
それでもあいつが周りに気遣いを見せ始めたなら、それはまたあいつが無理し始めた証拠。筋金入りのカッコ付け馬鹿ですから。田山は。
負けず嫌い、と言っても良いかもしれませんね。
何故頼ってくれないのだと思うかもしれませんが、繰り返し言います。田山も器用じゃない。頼ることさえ見えないことがある。
ではその時、自分は何をすべきか? 田山と同じようにカッコをつけて、あいつを支えてやることです。頼ることを気付かせてやることなんです。
何かあいつが無理して馬鹿なことをしようとしたら、全力で止めたい。
荒川さん、田山はそういう奴ですよ。
あいつが必要以上に無理する時はいつだって友達のためなんです。そして自分のためだって言い聞かせているんです。
そんなあいつを、どうして疑おうとするのか、自分には正直理由が見えません。
少しだけ貴方達に嫉妬を覚えているんですよ。
自分にとってあいつは一番の友。その友が最近こちらに顔を見せてくれない。寂しかったりするものです。舎弟だから仕方が無いかもしれませんが……それでも自分は胸を張って言えることがある」
険しい顔から一変、彼はどこかしら勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「いつだってあいつを信じている。自分は、最後まであいつを信じきれると断言できるんですよ。信じられないあなた方のチームとは、舎兄弟とは、所詮そういうものなのでしょうか? なんにせよ、田山を悪く思うことだけはやめて下さい。切に願います。何か連絡があったら報告しますので。それでは」
呆気取られている不良二人に一礼し、利二は踵返してコンビニの裏口へ戻って行く。
我に返ったヨウとシズは顔を見合わせ、苦々しい笑みを浮かべた。
本当に言ってくれる奴だ。
不良相手に臆せずあそこまで言ってくれるなんて。度胸があると言うか、なんと言うか。さすがはケイのダチ、彼と体を張って喧嘩をしただけある。
何だか悔しくなった。
疑ってしまった自分が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「なんだよ。俺の立場がまるでねぇじゃねえか」
まだまだ舎兄としても、リーダーとしても自覚が足りない。力量も不足している。仰るとおり、舎弟の何を見てきたのだろう。
肩を竦めるシズは「言われたな」舎兄の面目丸潰れだぞ、と茶化してくる。それには触れないで欲しいものだ。今、猛省しているところなのだから。
ヨウは気持ちを改めた。
毒言を吐いてきた利二に感謝をしたい。今の言の葉たちで気持ちが吹っ切れた。疑いの芽が摘まれたのだ。
疑うことはもう止そう。
利二の言うとおり、ケイはメールさえ出来ない状況に陥っているのだ。部屋で塞ぎ込んでいるのかもしれない。
一番辛い状況に立たせられているのはケイなのだ。そのケイを支えようとするどころか、疑心を向けてしまうなんて。
「もっかいケイの家に行こう」
ヨウはシズに提案した。
もう一度、居留守を使っている可能性の高いケイの家に行こう。
今度は出て来てくれるかもしれない。ひょっとすると出掛けていて、その道の途中で出くわすかもしれない。会えずとも情報をつかめるかもしれない。彼の家に行けば会える可能性が高くなるのは確かだ。
なんにせよ動かなければ、ケイに会う可能性はゼロなのだ。
だからもう一度、ケイの家へ。
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