09-07 「やっぱり今日も来てないんっスね。ケイさん……会いたいっス……ケイざん……俺っち、寂しいっスっ」 どーんと落ち込んでいるのはケイを慕っている弟分のキヨタだった。 ここ数日、ケイに会えていないことが寂しくて仕方が無いらしい。 「ケイさぁあああん!」 キャンキャンと子犬のように吠えて会いたい気持ちを空に投げている。 「あいつ、何してるんだよ。手のかかる奴だな」 モトは親友を慰めつつ、ケイに悪態を付きつつも、心配の色を見せている。本心は憂慮で一杯なのだろう。 一番そわそわとしていたのはココロだった。 「ケイさん、大丈夫でしょうか」 あっちへうろうろ、こっちへうろうろ、忙しなく動き回っている。響子に落ち着けと言われても、ココロはやっぱりうろうろするのだ。 気持ちが態度に表れているだけに苦笑いを零してしまう。 「ケイが来ないのはしょうがない。傷心が癒えるまで待つしかないよ」 皆の様子を見かねたハジメが意見する。 こればかりは本人の問題、自分たちが口を出せる問題ではないと口にした。 確かにそうだとヨウが首肯すると、 「でもでもでもさ」 このままじゃ不味いとワタルが反論する。 何故ならばケイはヨウの“足”であり、ヨウの舎弟。 長期間、不在されるとそこを日賀野チームが狙ってくる可能性がある。 それだけ狡く、機転の利くチームなのだ。事が向こうのチームにばれる前に不在問題は解決させたいと意見した。 「向こうのチームも追試が終わる筈だしぃ、気は抜けないっぽーん。隙を見せたらシテやれるんば!」 これまたご尤もな御意見である。 しかめっ面を作るヨウを余所に、苛立ちを見せたのはモトだ。苛々すると軽く髪を掻き乱す。 「グズグズ引き篭もるくらいなら、表に出て来いっつーの。オレ達のことがそんなに信用ならないのかよ」 相談であれ愚痴であれ、此方は相手のはけ口になれるというのに。 ブツクサ文句垂れるモトに同調したのは弥生である。 木材から飛び下り、何かあれば仲間内に吐露して欲しいものだ。それとも信用されていないのだろうか。彼女はぶーっと脹れた。 「そうじゃねえよ」 ヨウは弥生の考えを否定する。ケイは自分達に信用を置いている。それは確かだ。 「じゃあ何で」 弥生の追及に珍しくココロがおずおずと意見する。 「あの……その、ただ言い難いんだと思います。み、皆さんを信用していないわけじゃないんですけど、『相談してもいいのかな?』と思っているのだと。ケイさん。皆さんに比べたら大人しい方ですから……私、なんとなく気持ちが分かります。私がケイさんだったら……同じようなことをしてしまいます。きっと」 さり気なくケイをフォローするココロはもじもじと指遊びをしながら自分の考えを主張する。 「で……でもやっぱり寂しいですよね」 皆の気持ちも酌んで、またもじもじ。もじもじ。もじもじ。皆の顔色を窺っていた。 どちらの気持ちにも理解を示すココロの意見に頷き、ヨウはこれからどうすれば良いかと思考を巡らせる。 ケイのことばかり気を取られてもいけない。ヤマト達のことも考えなければ。自分はチームのリーダー。 一つに囚われていては物事が上手く回らなくなる。 しかし、ああ見えてケイはチームの要のひとり。 優れた土地勘とチャリの腕を持っている。喧嘩で使えないとはいえ、他面では大活躍している。今、抜けられては困る人物なのだが……。 抜 け る ? ヨウは人知れず血の気を引かせた。 まさか、ケイはこの機にチームを抜けようとしているのでは。今回の出来事はケイに相当なダメージを与えた。 チームを抜ける可能性もなくはない。 現にメールの返信が無いのだ。電話を掛けても繋がらない。誰も彼もを拒絶している可能性もある。 更に言えば、ケイは向こうのチームの頭に舎弟を誘われている。それは現在進行形だ。向こうに中学時代の友人がいるのならば裏切る……ということも。 そこまで考えて首を横に振った。 なんてことを考えているのだ、自分は。 ケイに疑念を抱いてしまうなんて、今までケイの何を見てきたのだ。安易に考えてはならないことだ。 だが、舎兄の自分がそう考えてしまったのだ。仲間内が疑念を抱くのも時間の問題。いや、既に疑っている者も出ているかもしれない。 ひとりが不穏な動きを見せるとチームの輪は乱れてしまう。それだけは回避しなければチームとして致命的だ。 追試が終わった今、リーダーの自分が動かなければ、いずれチームの輪の均衡が崩れてしまう。なあなあにしておけない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |