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09-02




“お前とは……絶交だ”



健太の言葉がリフレインする。 
絶交……か、まだ夢でも見ている気分だ。

あんだけ仲の良かった奴とあっちゅう間に絶交しちまうなんて。

健太、俺等、本当にこれで良かったのか。いや、良かったんだよな。俺はお前にとって敵方リーダーの舎弟。お前は俺にとって敵方のチームメート。
今を捨てられない現実が俺達に過去を捨てさせた。立場的に考えても、これが最善の策だったんだ。

分かっている、分かっているんだ。なのに認められない俺がいる。理屈だけじゃこの気持ちに整理がつかない。


ヤな別れ話だよ。

出逢い話は大したこと無いのに、別れ話は激濃厚だぜ。濃厚。ベタな失恋するよりも、これは堪えるぞ。失恋じゃなくて失友か? 俺の場合。

んじゃあ失友した場合、どうすりゃこの気持ちに整理がつくんだ。失恋の場合は自棄食いとか何とかするだろうけど。

健太、何にも考えられねぇよ、今は何にも答えが導き出せねぇ。俺達のしたことが正解だったのかどうかも、判断できなくなっちまった。


ぼんやりとして宙を見つめていると、頭にぽふっと何かが掛けられた。


今度こそ現実に返り、瞬きを繰り返す。それがタオルだと気付くのに暫し時間を要した。真っ白な無地のタオルの端をそっと握り、顔を上げる。

同着で鼻の先に缶珈琲を差し出された。
その腕を辿って視線を持ち上げると、「奢りだ」眦を和らげる舎兄が肩を竦めてくる。

近場のコンビニでタオルと珈琲を買ってきてくれたのだろう。タオルの端を握っていた手を前に出すと、そこに置いてくれた。

じんわりと手の平が温かくなる。ヨウはホット缶珈琲を買ってきてくれたようだ。


「ありがと」


嗄れた声はヨウに届いたようだ。
「ん」軽い返事をして、俺の隣に腰を下ろしてくる。自分の分の缶珈琲を開け、口元に運ぶ様は本当に絵になる。イケメンは得ばかりだ。

視線を戻し、手中の缶珈琲を見つめる。

折角ヨウが買って来てくれたのに飲む気にならず、ただ両手でコロコロと擂るように転がす。
やがてその行為にも飽きて、力なく後ろに凭れかかった。金網フェンスの軋む音が耳につく。

見渡せば、停車している車がずらり。此処は私有地の駐車場だ。泣き崩れた俺を落ち着かせるために、ヨウが此処まで連れて来てくれた。

外灯に照らし出されている車の不気味さはパない。
まるで俺達を侵入者だと言わんばかりに、ライト部分がこっちにガンをつけている。くしゅっ、一つくしゃみを零す。夜風に当たっているせいか寒くなってきた。

「ケイ、ちっとでいいから飲んどけ。気も落ち着くし、体も温まるから」

それまで黙って傍にいてくれたヨウから、優しい気遣いを受ける。
カイロ代わりに持っていた缶珈琲に目を落とし、プルタブに指を引っ掛けてそれを開けた。一口。ほろ苦い甘味が口腔に広がる。比例して温かい。ほんとう温かい。安心する温かさに涙腺が疼く。振り払うように、片膝を抱いてそこに額を乗せた。

胸に広がるのは大きな痛みと喪失感、そして激しい自己嫌悪。他人に見せた弱い自分への情けなさや、泣いてしまった嫌悪感、これからの未来に畏怖する気持ち。

それらが複雑に絡んでいる。思いをめぐらせているとおさまりかけた痛みが疼き、落涙してしまう。

馬鹿、折角落ち着いてきたのに、何しているんだよ。


「誰も見てねぇよ」


俺のちっぽけなプライドを一掃してくるのはヨウだった。
頭に手を置いてくる舎兄の優しさに、ついしゃくり上げてしまう。

甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるヨウの口から、何が遭ったのかと執拗に問われない。それはヨウの優しさであり、気遣いだ。

もしかしたら弥生達から何かしら聞いているのかもしれない。
真実は分からないけれど、こいつの優しさが俺の真新しい傷を癒してくれるのは確かだ。


「……ごめん、ヨウ」


月明かりが濃くなる頃、俺はヨウに謝る余裕ができた。

付き合わせてしまった申し訳なさ。心配して探しに来てくれた嬉しさ。こうして傍にいてくれる有難さ。ひっくるめて謝罪の形にする。

八つ当たりに近いことをしてしまったのに、「いいさ」手前がやりたかっただけだから、舎兄はキザな笑みを浮かべる。

腫れているであろう目を細め、舎兄をまじまじと見つめた。



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