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08-19




「分かった」


ぜってぇ言わないと口約束を結ぶと、「絶対だからな」念を押された。
二度、三度、首肯して両手を小さく挙げる。誓って誰にも言わない。態度で示したことにより、半信半疑のケイが渋々信用を置いてくれた。

荒々しく頭部を掻き、タオルハンカチを折りたたんでポケットに捻り込む焦らしをみせるケイが小声で呟く。 

「買出しの日に俺達、からかわれたんだ」

「からかわれた? 誰に?」

「……魚住に」

「はあ?! アキラに会ったのかよ!」

ヨウは聞いてないと抗議した。

「だって言ってねぇもん、そりゃ聞いてないだろうさ」

ケイが決まり悪そうに顔を顰める。

曰く、買出しの日にアキラと帆奈美に会ったというのだ。どうしてそういう大事なことを報告しないのだとヨウは些少の怒気を抱く。
もしも何か遭ったらどうしたのだとお小言を漏らしつつ、続きを語るように促した。

躊躇しているケイは目を泳がせながら、言葉を選んでヨウに伝える。


「情報がお互いに欲しいだろうからお茶をしないかって誘われたんだけど。勿論、そんなことができるわけもなくって。俺達、断ったんだ。そしたら、魚住が俺達の関係をどう思ったのか……ゴム、投げつけてきて」


ゴム? 冗談でも輪ゴムではないだろう、この場合。

「もしかしてセフレにでも見られたのか?」

ヨウがつい思ったことを口走る。

途端にケイが石化した。

「せ、ふれ。そんな、俺とココロが並んで歩くとそういう風に……ああもうダメだ」

大ショックを受けてしまうケイにしまったと思いつつ、ヨウは自分なりに整理することにした。


「なるほどな。じゃあ、買出しに行ったお前等はアキラたちに遭遇した。そして」

「ヤッているように「セックスしているように見られた」お前最悪! 露骨にその単語を出すなよ! 俺、遠回しに言おうとしたのにぃいい! チクショウ、どーせ俺は童貞だよ! ヨウみたいに単語慣れしてねぇよ!」


いや、お前の童貞事情は聞いてねぇよ。
心中でツッコむヨウは、半狂乱になっているケイに呆れてしまう。

舎弟がズンズンと歩んできた。
据わった眼に思わず後退しそうになるが、彼がそれを許してくれない。詰め寄って質問を浴びせてくる。

「正直に答えてくれヨウ。俺とココロって、傍から見たらっ、ヤッ、ヤッているように見えるか?」

目を点にするヨウに、「俺ってそんなにエロそうな男に見えるか?!」タラシに見えるなら、死活問題だとケイが捲くし立ててくる。

もはや舎弟は半べそである。

「真の友達ならな。嫌なところも指摘してくれるもんだぞ!」

ブレザーを掴んでぐわんぐわん揺ってきた。

「ば、馬鹿落ち着け! お前ひとりでテンパんな!」

「お前が言わせたんじゃないかぁあああ! 責任取れイケメン!」

「完璧に責任転嫁じゃねえか! 大体な、男はエロイ生き物だ。多少はエロを考えてもしゃねーねぇんだぞケイ! 女体に興味は勿論」

「あるに決まっているだろ! 男の子だもの!」

阿呆な漫才もそこそこに、ヨウはケイを落ち着かせるために返事してやる。そういう関係には見えない、と。

寧ろあまり想像がつかないのだが。二人が濡れ場乗り越えちゃいました、など……ケイもココロもそういうのに関しては消極的そうだ。真面目な奴ほどエッロイとは聞くが、二人に関しちゃまず青春くさいベタな恋愛を見ている気分になる。無縁も無縁な気がした。

「本当か?」

ケイが探りを入れてくる。

「うそは言ってねぇよ」

ヨウがひらひらっと手を振った。

「それともなにか? テメェ、ヤりてぇの?」

「ばっ?! ば、バッカ! ちげぇよ馬鹿!」

だろうな、ヨウは納得する。食い下がってくるケイを一瞥した。

「まとめるとさ、お前等はアキラにからかわれたせいで、周りに変に見られていないかどうか気になった。だから気まずくなったんだな?」

こくんと舎弟が頷く。

「それって結局、お前が相手を好きだから意識したんじゃないか?」

ヨウは眦を和らげた。
鳩が豆鉄砲を食らったように目を白黒させてしまうケイに畳み掛ける。

仮にその状況が弥生とだったら、ケイは同じ態度を取っていただろうか? いや、きっとないだろう。
お得意の調子ノリで受け流して仕舞いにするに違いない。相手がココロだから、彼女だから、ここまで意識して気まずくなってしまったのだ。

つまりそれは、そういうことなのだ。


「違う。俺は、ココロとこれからも好(よ)き地味友でいたい。それ以上の気持ちはないんだよヨウ」

「頑固だなお前も……あ、ココロじゃねえか。何しているんだよ」


出入り口に向かって驚愕を露にすると、ケイが大慌てで同じ方角を流し目にした。

しまったと舎弟の顔が引き攣り、ヨウがにやりと口角を持ち上げる。ココロが此処に来るわけがない。何故なら此処は男子トイレなのだから。


「もういいだろケイ。お前は好きなんだ、ココロのことが」


素直になった方が気も楽だぞ。ヨウの助言に、ケイが口を閉じてしまう。

拍数を置いて一時的に意識しているだけなのだと返答した。どうしても好きな気持ちを受け入れられないらしい。

それに気付きいたヨウは認めちまえと肩を竦める。自分を誤魔化しても一緒ではないか、言葉を付け足して。

ケイは苦々しく笑い、「認めたくないんだ」気持ちそのものを否定した。

「俺、友達のままがいいんだ。やめようと思っている。意識するの……これからも俺とココロは親近感抱く地味友だよ」

違和感を覚えた。


「……なんで、そこまで拒絶する必要があるのか、俺には分からねぇよケイ。まるで悪いことをしているみてぇにテメェ、自分の気持ちを拒んでいるぞ」


それって辛くないか? 相手に問うと、「彼女を困らせる方が辛いよ」ケイがようやく素直な一面を垣間見せる。

困らせるもなにも二人は両想いなのだ。
傍から見れば互いに告白しておしまい、だと思うのだが。

しかしヨウは直後、舎弟から驚かされる。ケイはヨウにこう告げたのだ。


「ヨウ、ココロにはな。好きな人がいるんだ。俺の気持ちがそういう気持ちを抱くと邪魔になる。だから、いいんだ。今のままで」




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あきゅろす。
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