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08-18



「サンキュ。また何かあったら宜しくな」


ケイが別れの挨拶と共に携帯を閉じる。会話を終えたようだ。
声を掛けると、大層驚かせたようで彼が声を上げた。大袈裟な反応だとヨウは苦笑してしまう。

「ヨウ。勉強は? その様子じゃ小便しに来たわけじゃないんだろ?」

なんでここにいるのだと説明を求められ、休憩だと軽く肩を竦める。

嘘は言っていない。
今頃、チームメートは思い思いに時間を過ごしていることだろう。


「休憩だ。テメェこそどうしたんだ? こんなところで。途中で抜けていただろう?」

「ん、ああ、ごめんごめん。利二から連絡があったんだ……日賀野以外にも不穏な不良グループがいるらしい。だから俺に気を付けろって電話をしてきたんだ」


ヤマト以外にも不穏な動きが?
ヨウは眉間に皺を寄せる。地元で名が挙がっている有名な不良といえば、自分とヤマトくらいなのだが……自分達の地元は不良が多い方ではない。

不穏な動きをする不良がいたとしたら、いやでも名が耳に入ると思うのだが。

詳細の一切は分かっていないらしく、ケイ自身、また五木利二から連絡があり次第、報告すると告げてきた。

こればかりは情報を待つしかない。考えても無駄だろう。

ヨウは一報に頷き、後でシズにも連絡しておくと返した。


間を置き、ケイが意味深に伸びをして溜息をつく。
携帯をブレザーにしまい、手を洗うために手洗い場前に立った。


「ヤになっちまうよな。日賀野以外に不穏な動きがあるって。ただでさえ日賀野達に悩まされているのに」


相槌を打つヨウだが、ケイの陰りある表情に目の当たりにして察してしまう。

彼のその表情は不穏な動きに対する不安ではない。別の理由を持ってのことだ。そのくらいヨウにだって分かってしまう。

舎弟が自分のことを理解してくれるように、ヨウ自身もまた少しずつ舎弟のことを理解し始めている。 

不思議と舎弟の気持ちが分かるようになるのだ。
なんとなく舎弟の気持ちを感じ取れるようになっている自分がいる。

ケイに倣って間を置き、ヨウは言葉を選びながら、なおも率直に尋ねた。


「お前、本当はココロのことが好きなんじゃねえの?」


手を洗っていたケイの動きが止まる。

何を言われたのか分からないようで微かに瞳が膨張していた。

反応で肯定しているようなものだが、我に返ったケイは空笑いを浮かべ「弄るのはよしてくれよ」とおどけてくる。

俺達は何もないのだと強硬な姿勢を見せる舎弟に目を細め、ヨウはひとつの賭け事をしてみた。

「俺はココロのことが好きだけどな」

ケイのおどけていた表情が固まった。


「誰にでも気遣いできるし、人の痛みをわかってやれる優しい奴だ。俺はあいつのことが好きだけどな」


呼吸を忘れているケイに、「ダチとしてな」したり顔で笑ってやる。

見る見る耳を紅く染めていく舎弟は、自分の取ってしまった失態を隠すように最悪だと喚いた。

「やっぱりお前は俺を弄くりに来たんじゃねえかよ。なんだよ畜生」

文句垂れながらバッシャバシャと手洗いを再開する。
もはや言い逃れのできない状況下にヨウは勝利を確信した。

「ケイはどうなんだ」

間髪容れず、「友達として好きだよ」と言う舎弟の素直じゃない返事に笑いそうになる。

耳まで染めている奴が友達以上の好意を寄せていることは明白だ。
キュッと蛇口を捻り、ポケットからタオルハンカチを取り出して水気を拭うケイの渋い顔にやれやれと微苦笑。まずは心意より真意を尋ねるべきか。

「買出しの日になんか遭ったんだろ? お前等変だったぞ。おっと、べつに何もなかっただなんてうそつくなよ。あれだけチームメートに気遣わせておいて、そりゃねえだろ。お前等が喧嘩したんじゃないかって心配していたんだからな」

先手を打って逃げ道を塞ぐ。

ケイがダンマリになったせいで排水溝に流れていく水の流れる音だけが、やけに大きく室内に響き渡った。

今しばらく口を閉ざしていた舎弟だが、逃げられる術はないと悟ったようで観念したように重々しく口を開く。

「喧嘩は、していない。気まずい空気になっただけで」

「なんで?」

「……ヨウ、皆に言わないって約束してくれるか? 舎兄弟だけの秘密にしてくれるなら、お前に話す」

当時のことを思い出したのだろう。顔と耳が同じ色に染まっている。



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あきゅろす。
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