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水面下で焦っているよ不良さん!





(――おいおいおい。これって不味い展開じゃねーの)




傍らで様子を見ていたヨウは渦中にいる二人の様子に軽く溜息をつきたくなった。

キヨタの余計な一言で吹っ切れてしまったというか、諦めてしまったというか、区切りを付けてしまったというか。

変に意識し合っていた彼らの気まずい空気が一変、ただのお友達でいましょうオーラが二人を取り巻いている。

気まずくとも異性として見ていたあの二人が異性として見なくなったのだ。これでは進展もクソもない。此処で終わり。ジ・エンドだ。

なにがあったかは知らないが、少しでも気まずさを取り除いて仄かな恋心を応援してやろうと思った矢先のこれ。どうするべきだろうか。


「……キヨタ。アンタ、ちょっと来い」


おどろおどろしい殺気を醸し出す響子が腰を上げる。

ひぃっ、お局様の形相にキヨタが完全に怖じてしまっているが彼女は容赦ない。チビ不良の耳を引っ張り、何処かへと引き摺り消えて行く。

「ご、ごめんなさいッス! ちょっと口を滑らせてしまったんですぅうう!」

キヨタの哀れな悲鳴が遠ざかる。
生きて帰還してくれると良いが……あの様子じゃ拳は免れないだろう。

「あんの馬鹿」

空気を読めないところがあるのは知っていたけれど、あそこまでとは。モトが親友の失態に頭を抱えた。
ヨウも大いに溜息をつきたい気持ちになった。良いムードから気まずいムード、そして終わりムードになってしまうだなんて。

二人の、正しくはココロの応援をしていた響子は事態に頭を悩ませていたのだ。

折角彼等の距離を縮められたと思ったのに、手の平を裏返したように二人が余所余所しい態度を取るようになった。
ケイに非があれば、容赦なく罵詈讒謗(ばりざんぼう)できるのだが、そうではないと様子を見ていて分かる。

だからこそ響子は頭を抱えていた。
何だかんだで彼女は姉御肌なのだ。本当はケイのことだって心底心配しているに違いなかったのだが当事者達がこれだ。これ。

(キヨタの言うようにケイとココロは本当にお似合いだった。あいつ等も満更じゃなさそうだったのに……俺等の余計なお世話だったのか?)

完全にただのお友達ですオーラを放出している二人。

自分達の恋心説をきっぱり否定した途端、気まずさを散らして和気藹々と談笑をしている。それはそれは実に楽しそうに。

一見すると微笑ましい光景だが、ヨウは物足りないと思えて仕方がない。
気まずくても異性として意識し合っていた方が、応援しがいがあったのだ。あんなに意識し合っていたというのに、欠片もそれが見えない。

一時的な感情だったのだろうか?
自分達に言われて諦められるような、安易な気持ちだったのだろうか?

そうだとしたらとても残念だ。二人はとてもお似合いな組み合わせだったのに。傍から見ても二人は本当にお似合いだった。

悪い意味ではない。
此方がほっこりするような、素敵な組み合わせだったのだ。

(あいつ等が結論を出しちまったなら、俺達が口を出すことはできねぇ。けど)

ヨウは残念なような複雑な気持ちに駆られた。



全員が昼食を食べ終わった頃(戻って来たキヨタはボロボロだった)、トレイを一箇所にまとめ勉強開始する。

教える側の四人は席を立って、追試組の勉強を見て回っていた。中学組は中学組で一問一答形式で問題を出したり、採点したり、それなりに役に立っている。

二時間ほど経った頃だろうか。


「もう無理ぽ……ワタルちゃん終了のお知らせ」


ワタルが疲れたとテーブルに伏し、限界を訴え始めたため、休憩を挟もうとハジメが提案する。

それに皆が便乗したため一息することが決まった。ヨウ自身も休憩ができることに気持ちを緩め、大きく伸び。
慣れないことを長時間するものではない。肩が凝ってしまった。

疲れたとぼやき、肩を揉んでいると、「れ?」キヨタが周囲をキョロキョロと見渡す。

どうしたのだと尋ねれば、ケイがいないのだと言う。


そういえば先程から姿が見えないような……あ、手洗いに行くところを見たっけ。しかしそれは随分前だった。混んでいるのだろうか?

ヨウはそのことを思い出し、自分が捜しに行くと申し出る。

「俺っちも!」

捜しに行くと立ち上がるキヨタをやんわり制す。
大勢で捜すほど店も広くない。店内の何処かにいることは確かなのだ。ここで待っているよう指示する。

しかしキヨタは不満げに声を上げ、自分も捜しに行くと主張した。

弟分として動きたいのだろうが、ヨウ自身舎弟とサシで話したい気持ちに駆られている。譲って欲しいところだ。

するとモトが何かを察してくれたのだろう。


「ヨウさんにケチつけるな。お前はここで待つんだ」


キヨタの頭をぐりぐり押えて無理やり身を引かせていた。
申し訳なさ半分、弟分に対する感謝に半分、気持ちを抱きながらヨウは早足で手洗いに向かう。

青色の人間のマークが記されている扉の前に立つ。

躊躇いなく木造を装っているプラスチック製の扉を押し開けると、そこにはひとりの人間の声で満たしていた。


他に人は見受けられない。

声の主はヨウが探していた舎弟だ。


電話をしていたらしく、向こうの話に相槌を打ち、うんぬん首を振っている。



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