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07-24



「お前にしては……珍しい決断だったな」



思案に耽っていたヨウは意識を現実に戻し、ゆっくりと視線を上げる。そこには眠気を噛み締める副リーダーの姿があった。

彼が決断の何を指しているのか、謂わずも理解できたため、ヨウは小さな苦笑を零す。
「一部反感も出ているみたいだがな」

シズは弥生達の方に視線を向け、軽く眉根を寄せた。
しかしヨウの気持ちを尊重しているのか、彼はそれ以上のことは何も言わない。ヨウにとって有り難い気遣いだった。

「ケイと……話し合っての決断か?」

「んにゃ解消は俺の独断だ。勝手なことをしている自覚はあっけど……あいつだったら分かってくれる。あいつに言われたからこそ、俺はこの決断を下したのかもしんねぇ」

頭の後ろで腕を組み、ヨウは軽く目を閉じた。頬を撫でる微風が心地良い。
そっと瞼を持ち上げ、「一旦離れる必要があったんだ」ヨウは胸の内をシズに明かす。
自分と舎弟は一旦離れる必要性があった。
でなければ、自分は偏見的に物事を見たままだっただろう、と。

「どういう意味だ?」シズの問い掛けに、「俺は器用じゃねえからさ」ヨウは空を仰ぎながら答えた。


「ケイと舎兄弟のままだったら、モトやキヨタをちゃんと見てやることもできず、結局はケイを舎弟に選んでたんだと思う。ああ見えてケイは、俺をよく分かってくれてるから……それに甘んじて舎弟に選んでいた。俺をよく理解してくれてるからって理由でさ。それに、俺はどこかでケイというダチを失うんじゃないかと恐れていた。

もしケイと舎兄弟を解消しちまったら、別の舎弟を選んじまったら、俺等の関係は終わり。舎弟じゃなくなったあいつは俺等とつるむ明確な理由もなくなるから、俺達のところから離れて行くんじゃないかと思った。

あいつを俺等不良の道に入れたのは、間違いなく俺だ。
最初はあいつが面白くて、繋ぎ止めたくて舎弟に引き込んだけど、結構あいつと馬合ってさ。居心地良くて、このザマだ。

な、偏見だろ? それじゃチームだって納得しねぇよ。俺は舎兄の前にチームのリーダーだ。手前の私情で舎弟うんぬんは決められねぇ。

だからケイと離れた。じゃねえと周りが見えてこねぇんだ。周りが見えていなかったばっかりに後悔したことが沢山あった。今まではそれをおざなりとしてきたけど、これからはそれじゃ駄目だ。

ケイに背中蹴られちまった。俺の気持ちを見透かしたように言ってきやがった。舎弟じゃなくても、俺はヨウと繋がっている、てさ」


「相変わらず……お前等は寒い会話をしているな。どこの青春ドラマだ。羨ましいくらい……寒いぞ」

「うっせぇな」


褒め言葉として受け止めたヨウは微笑を零す。 

「自覚が出てきたな」

シズはチームリーダーとしての芽生えに微笑ましい気持ちを抱いた。少し前まで一直線上に物事に突っ込むだけの不良だったというのに……チームの頭は喧嘩が強いだけじゃ駄目なのだ。

目前の喧嘩だけ蹴散らしていく、それではチームを結成した意味がない。

「ええええっ、そ、それどういうことだよ、モト!」

突然、静かな空気に響き渡る絶叫。 

キヨタの声に何事だと一同が注目する。

モトの帰りをそわそわと待ちつつ周辺をうろついていたキヨタは、携帯を耳に当てて何やら焦っている様子。

「大丈夫なのかよ!」

悲鳴に混じった声音にヨウは眉根を寄せた。
木材から飛び下りると脇目も振らず、キヨタに駆ける。

何があったのだと問う。
キヨタが携帯機から耳を外し、大変だと早口で説明を始めた。

「モトが不良に追われていると言っているっス。しかも池田チームの回し者っぽくて……人数が多いみたいっス」

「モトが……」

大事な弟分がピンチに陥っているのだと聞き、ヨウはキヨタから携帯を取って向こうに話し掛ける。

「今何処にいる?」ヨウの質問に、『交差点前の大通りです』機器向こうのモトが答えた。声に緊迫感がある。事態は芳しくないらしい。

今すぐ応援を送らなければ……ヨウはシズとワタルにバイクを出すよう言う。移動できるよう常にたむろ場に止めているのだ。

しかしモトが応援はいらないと意見した。

何を馬鹿なことを言っているのだ、捕まればどんな目に遭うと思っているのだ。

モトがそれなりに喧嘩ができたとしても大勢相手では勝ち目がない。
身を隠せるような場所に避難しておけと命令するが、モトは『えーっと……』と言葉を濁すだけ。

何か意見をしたいのだろうが、肝心な時に何も言えないのはモトが自分を尊敬しているからだろう。




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