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07-20



「あ、あの人数はないだろ。ぜってぇ俺達をフルボッコにする気満々だったって。はぁああっ、疲れた……そうだ、ヨウに連絡。あ、携帯忘れた。モト、お前、携帯持って」

「ストップ、ケイ。声が聞こえてきた」


ゼェハァ息をついていたモトが人差し指を立ててくる。

嘘だろ、結構な距離を走った筈なのにもう追いついてきたのかよ。声を上げそうになりながらも、どうにかそれを嚥下して耳を澄ませる。

「いねぇな」「何処行きやがった」「逃げ足の速い奴等だ」等など物騒な声が聞こえてきた。軽く店を見て回っているようだ。随分人数もいたし、俺達を手分けして捜しているんだろう。

「しっかし邦一さんの情報はスゲェ。荒川達がよくあそこのスーパー付近でたむろしてるって分かったな」

「どっから仕入れてくるんだろうな。ま、以前荒川に喧嘩で負けた悔しさが行動に出てるんだろ」

追っ手の会話を聞く限り、協定を結んでいる不良達の正体は池田チームの回し者のようだ。

ろくに店内を調べもせず店を出て行ってしまう池田チームの回し者をこっそり見送った後、俺はモトと顔を合わせる。

「池田チーム……随分な数をこっちに回してきたな。てことは、今、向こうのチームは手薄なんじゃないか。たむろ場所は弥生から聞いているし……これってチャンスじゃね? モト」

「チャンスって……なんだよ?」

キョトンとするモトに説明を続ける。 


「池田チームを潰すなら今しかないんじゃないかって話。あの追っ手達を一手が引き付けておいて、その隙に一手が乗り込む。ヨウって卑怯なことは極端に好きじゃないみたいだけど、向こうから振ってきた喧嘩だ。この作戦、分かってくれると思う。誰かがオトリになって追っ手を引きつけている間に……」

「でも誰がオトリになるんだよ。ケイやオレじゃ、その内、あいつ等に捕まるぜ?」


頭の中に恐ろしい結論が出ていた。したくはないけど、これができるのは俺だけだ。


「俺、どっかでチャリを仕入れてくる。路上に一つくらい転がってると思うし。オトリは俺が行く」

「ケイがオトリになるって?! む、無茶言うなよ! アンタ、喧嘩できないだろーよ!」


すっ呆けたことを言うなと言わんばかりにモトが反論してくる。

「そうだよ俺に手腕はない。だから俺が行かなきゃいけないんじゃんかよ」

力なく笑い、肩を竦める。
ヨウのおかげさまでチャリの腕には自信がある。

あいつを乗せて散々逃げ回っていたから、チャリの腕と足はとても鍛えられた。

逃げ足には自信があるんだ。これがチームにできる俺の精一杯なんだよ。

「モト、お前がもし捕まってフルボッコにでもされたら、それこそ一大事だ。大きな戦闘力の一つを失うことになる。俺と違ってお前は喧嘩ができるんだ。こんなところで負傷するわけにもいかないだろ」

「そりゃそうだけどさ。アンタ、自分で何を言っているのか分かってるのかよ」

「勿論。自分が無茶しようとしていることまでバッチリ理解しているつもりだよ」

ノリよく返事する片隅で、俺は畏怖の念を抱く。

見栄を張っていてなんだけど、大丈夫なんかなぁ俺。チャリの腕に自信があるとはいえ左肩は負傷している。

なにより一人で大人数を相手に逃げるなんて、正直恐くて怖くて仕方が無い。捕まったらどうするんだ? あの人数でフルボッコされたら死ぬんじゃね、俺……それでも恐怖を乗り越えてやるしかない。

だってこれが俺にできる精一杯なのだから

「モトはヨウに連絡して向こうに戻ってくれ。俺があいつ等を引きつけている間に」

腰を上げ、カーテンからちょっとだけ顔を出す。

店内をグルッと見回して不良がいないかどうか確かめた。疎らに客の姿は見受けられるけれど、不良らしき姿は見られない。今がチャンスだ。

抱えていたローファーを置いて試着室を出るためにそれを履く。刹那、左腕を掴まれ勢いよく引っ張られる。よって試着室に逆戻りしてしまった。

思わず左肩を押える。

「な、何するんだよ」

左半身は負傷しているんだから丁重に扱えって。意見しても、向こうは知らん振り。

「アンタって本当に馬鹿だろ!」

怒鳴られてしまった。
なんで馬鹿なんだよ。画期的な作戦だと思うんだけど。

「他に手でもあるのか?」

憮然と尋ねる俺に、「そうじゃない。どうして自分ひとりで無茶を背負うんだよ。オレはそれが言いたいんだよ」モトが顔を歪めた。

「アンタ、自分がチームに属している自覚をしているか? してないだろ!」

「し、しているよ。だから、こうやってオトリに」


「それがしてねぇっつってんだよ! なんでもかんでも一人で無茶しようとしやがってさ。アンタはチームのひとりなんだぞ。自分がオレ達の仲間って自覚してねぇじゃん! アンタどっかで思ってんじゃねえの? オレ達の仲間じゃない、使いパシリの駒だって」


思わぬ言葉に俺はたじろいだ。


「別にそんなことは思ってねぇって。たださ」

「ただ、なんだよ。不良じゃない? 喧嘩もできない? でも自分にできることはやるつもり? ……だから自分が傷付いてもいい選択を取るのかよ。自己犠牲になるようなことをばっかしてっ、オレ達が喜ぶとでも? しねぇよ馬鹿。オレ達をなんだと思っているんだよ。ケイ、アンタはオレ等の仲間だろ! 上辺だけじゃないっ、仲間だろ!」


衝撃が走った。

モトからそんな言葉を聞かされると思っていなかったんだ。

仲間……あれ、おかしいな。
随分前からヨウ達とは仲間だと思っていたのだけれど、なんでこんなにも嬉しいんだ?

困惑する俺のことなど脇目も振らず、モトは吐き捨てるように、人の腕を掴んだまま怒声を張り続ける。



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あきゅろす。
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