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07-16





「ケイがどうして舎弟をリストラされないといけないの? 喧嘩ができないから? だから舎弟を解消なの? ねえ!」



まさか弥生が喧嘩腰になって庇ってくれるとは思わず、今度こそ俺は呆気とられてしまった。


「私は納得がいかない。舎兄弟を解消する理由を教えてよ。今すぐ」


眼光を鋭くする弥生の剣幕に押されることもなく、「今から説明すっから」ちっと落ち着け、ヨウが憮然と肩を竦めた。

曰く、解消に至った主な理由は公平に舎弟としての技量をみたいから、らしい。

舎弟問題が勃発しているんだ。俺とヨウが舎兄弟のままだと、他の二人が不利だとヨウは感じたらしい。

基準を平等にして皆の技量を見定めたいと配慮した結果、舎兄弟解消をしたんだ。
後輩達のために俺と交わした“いけるところまでいく”という約束を破ってまで舎兄弟を解消するなんて。アイツらしい。

更にヨウは中間発表を報告した。

同じ目線で見た現時点で、舎弟に一番近い候補はキヨタだとリーダーは述べる。大きな要因はその手腕を高く買われているからだろう。
そりゃ合気道を使えるなら、舎弟として十分に使えるだろうしな。

次にモトだって。これまた喧嘩の腕が買われていることが理由に挙げられた。

「やったじゃん、モト」

キヨタはモトの背中を叩いて喜びを露にしている。

頑張れば一番になれるかもしれないぞ、励ましを送るキヨタだけど、モトは複雑そうな顔を作って俺の方を見てきた。
どうしたんだ、そんな哀れむような顔でこっちを見て。嬉しいんじゃないか? 舎弟だった俺が最下位だったのに。変な奴だな。


「私は絶対に納得しない!」


結果報告を静聴していた弥生が怒声を上げる。

不満たらたらに、

「技量で見ている? 違うでしょ。喧嘩ができるかどうかを見定めているだけじゃん! それだけの理由で舎弟を選んでいるのなら、私は仮に舎弟が決まってもその舎弟を認めない」

何故なら力のみで見ているのだから。弥生はフンと鼻を鳴らす。


「私はケイに同情して反論しているんじゃない。ケイにだって充分な素質があるから反対しているんだよ。ケイとは初対面だったにも関わらず助けられた。ハジメも助けてくれた。喧嘩ができないのに私達を助けてくれたんだよ。
なにより、チームのためにいっぱい働いていることを私は知っている。ヤマトのことだって、ケイはヨウを裏切らずに舎弟のままでいてくれた。

その気持ちは評価に値しないの? 喧嘩ができないの一点で評価するようなら、私はヨウの評価基準を軽蔑するんだけど。大体ヨウがケイを舎弟にしたんでしょう! 責任を持って最後まで舎兄弟しなきゃ駄目じゃん! ヨウの馬鹿ちん! 阿呆! はげちゃえー!」


うぇーっと舌を出してブーイングをかます弥生をハジメが宥めた。

「まだ中間発表だって」

落ち着くよう促されても弥生は止まらない。

「十円はげができちゃえ」

ねちねちと地味に嫌な呪詛を唱えている。

「思った以上の反発だねぇ」

ヨウちゃんも大変だ。
ワタルさんが面白おかしそうに口角をつり上げる。

「そんだけケイも貢献してきたってことだ。努力が実ってんじゃねえか。こりゃ後輩も大変だなぁ」

響子さんも微笑を零して目尻を下げている。二人して意地の悪い反応だ。

「弱ったな」

ヨウが頭部を掻く。
これでも使わない頭を懸命に働かせたつもりなのだけれど、疲労の色を見せている舎兄……元舎兄に俺は苦笑いを零す。

「分かった、ヨウがそうしたいなら俺はそれに従うよ」

中間発表も受け入れると相手に伝える。

「で、でもケイだって」

庇ってくれる弥生に、「ヨウだってチームを考えてのことだ」意地悪をしているわけじゃないよ。ポンッと彼女の肩に手を置く。


物言いたげな表情を作る弥生に一笑し、「喉渇いたな」ちょっくら自販機にでも行って来よう。妙に重くなる空気に耐えられなくなった俺は積み重ねられた木材から飛び下りて、さっさと自販機に向かう。

本当に喉も渇いてたしな。
確か倉庫付近に一台、自販機があった筈。近くにスーパーもあるけど、自販機の方が断然近い。

「あ、ケイ……」

弥生の呼び止めは敢えて聞かないふりをしたけど、「悪い」ヨウの謝罪には足を止めた。振り返って俺は笑う。


「お前の出した決断だ。自信持てよ。舎弟問題でどうのこうのと悩んでいる暇はないだろ?」

「―ーああ。分かってる。サンキュ、ケイ」


力なく笑うヨウに俺も笑みを返し、今度こそ自販機に向かった。



な? ヨウ。

俺達、舎兄弟が終わっても、さして変わらないだろ? 変わりっこないんだ。だってさ、俺達、結局は友達って糸で繋がっているんだから。



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