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07-13



「終わることで、お前と交わした約束は破られるだろうさ。なら約束し直せばいい。舎兄弟じゃない俺達で。前にも言ったけどさ、仮に舎兄弟が終わっても俺達は何も変わりやしないと思わないか? 舎弟じゃなくても俺はお前の足くらいにはなれるよ」


握り飯を食い終わったヨウがブランコの上に立ち、そのまま漕ぎ始める。
連なる鎖がギィギィと悲鳴を上げた。一定のリズムで鳴く鎖に耳を傾ける。


「ま、リストラされるなら、その前に舎弟の座を賭けて勝負くらいはしないとな。俺、これでもヨウの舎弟だから? 一度くらい舎弟の威厳を見せないとな。ああ、喧嘩じゃなくてそこは“ヨウの足”としてチャリで勝負。喧嘩なんて瞬殺だもんな! やだぜ、俺、これ以上、病院に世話になるの!」


ギィ……ブランコを大きく揺らしているヨウは一笑した。つられて俺も一笑を零す。


「安心しろって、俺は最後までお前についていく。その言葉に嘘偽りはないよ。舎弟じゃなくなってもお前についていく。俺はヨウの舎弟だ。舎弟じゃなくても、俺はヨウの友達だ。変わんねぇよ、なあにもさ。もう少し気を楽に考えてもいいと思うけどな。なによりお前はチームのリーダー。舎弟問題でどうのこうの悩んでる暇、ないだろ? 俺達の目的は日賀野なんだから、お前はそっちでもっと悩まないと」


ヨウはブランコから飛び下りた。

断続的に聞こえてくるブランコの錆びれた軋み音が、静かな公園に響き渡る。綺麗に着地して振り返ってくる舎兄の顔は、何処となく晴れていた。

「やっぱあれだな。舎弟ってのは、ケイみてぇヤツじゃなきゃいけねぇのかもしれねぇ」

「ヨウ?」


「俺はこうって決めたら一直線なんだ。何にしてもそう。喧嘩にしても、物事にしても……ケイに言われるまでヤマトのことなんて念頭にもなかった。駄目だな、周りが見えてねぇ。そういう時、気付かせてくれる奴が必要なんだって思う。ケイと話して気付いた。舎弟ってのはそういうもんだよな。後継者以前に……ん、なんか答えが出てきそうだ」


迷いを宿していた眼に一筋の光を宿している。吹っ切れたみたいだな。

「サンキュ」礼を言ってくるイケメンに、「どーいたしまして」俺は言葉を返す。意見が役立てられたなら本望だよ。

さあて、そろそろ学校に向かいますか。チャリだったら十分も掛からないし。

俺はチャリに鍵をさしてヨウを呼ぶ。当たり前のように後ろに乗ってくるヨウを一瞥。舎兄弟じゃなくなったら、ヨウを乗せる機会も少なくなるんだろうな。

そう思うとちょーっと寂しくなる。
何だかんだで毎度のようにヨウをチャリの後ろに乗せていたしな。

今じゃ良い思い出だぜ。ヨウをチャリに乗せていると厄介事なんかも出てきたりして俺、いっつもとばっちりを、


「見つけたぜっ、荒川庸一! よくも昨日は仲間を病院送りにしやがったな!」


俺は顔を引き攣らせた。目前に十数人の不良さま達がガンを飛ばしてらっしゃる。

あっらぁ、そんなお顔ししちゃって、ブサイクなお顔が更にブサイクになっていますわよ。じゃなくて! ちょ、喧嘩売られているって俺等!

「ヨウさん。ヨウさん。昨日……何かしちゃいました?」

同乗者が軽く手を叩いた。


「気晴らしに喧嘩を少々。ほら、舎弟のことで頭がいっぱいだったから体を動かそうと思ってよ」

「だっ、だからってこの人数っ、有り得ねぇんだけど! 二対十数人ってッ!」

「大丈夫だーいじょうぶ。数人ぶっ飛ばして、後は逃げりゃいいんだから。ケイはチャリをぶっ飛ばせ。おっと、左肩は大丈夫か? 掴んでもOK?」

「左肩とか言っている場合じゃねえから! ほら早く掴まれっ、イデっ、あと優しく掴んでな……少しは考えて喧嘩してくれよー!」

「ストレス発散だって」

ニカって笑うイケメンに、俺はこめかみに軽く青筋を立てる。

おまっ……だから考え無しに行動はするなとチームから口酸っぱく言われるんだよ。ああくそっ。俺、自発的に舎弟から降りようかな! ヨウの舎弟だと面倒事も多くなる!


かくしては俺はヨウをチャリの後ろに乗せて十数人の不良達と喧嘩……じゃなく、逃げ回る羽目になった。

俺達が学校に着いたのは昼休み始まった頃だったとかなかったとか。


やっぱり俺、自発的に舎弟から降りようかな。


口が裂けてもヨウには言えないけど、こいつの舎弟は心底に疲れる……いたく真面目な話、舎弟を降りたくなったのは俺だけの秘密だ。



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