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07-09



「け……ケイさん……、私も応援してますので。その、ケイさんだからこそ頑張って欲しいと言いますか」


残されたココロが俺に話し掛けてきた。

「俺だからこそ?」

首を傾げる俺に構わず、ココロはおずおずと隣に並んでヨウ達の方を見つめる。

「だってケイさん、私と同じ……その、あまり目立たない方ですから。でも比べれば私の方が目立たないと言いますか。ケイさんには親近感を覚えて」

「そりゃ俺とココロは不良じゃないから。みーんなバッチシ、髪染めたり、制服着崩したりしてるけど、俺とココロだけは真面目だもんな」


「だけど……ケイさん、ヨウさんの舎弟として頑張っていますよ。私も見習わないとなー……って。私、皆さんに何もデキませんけど……でも役には立ちたいんです。できれば、ヨウさんみたいになりたいなーって」


ココロは恍惚にヨウを見つめていた。

誰にでも屈折なく話し掛けてくれる、仲間思いのヨウみたいになりたいんだとココロは話してくれる。

ココロにとってヨウは憧れの存在らしい。
なんとなく分かるな、それ。俺もヨウに憧れる部分いっぱいあるもん。

イケメンもそうだけど、なんっつーか、仲間思いで真っ直ぐなところがな。羨ましい。

「ヨウさんは……とても素敵な方ですよね。何も役に立たない……地味女ですけど、せめて……ヨウさんのチームに恥じない女になりたいです。ケイさんのように頑張りたいです」

微笑を零すココロの独り言と表情に俺は目を削ぐ。

もしかして、ココロ……。


「ココロって、ヨウのことさ。好きだったりする?」

「え……え?! いえ、その! 憧れはありますけど、そんな……そんなこと」


かぶりを勢いよく振り、ボッと赤く染まるココロに俺は確信を抱いた。ココロ、好きなんだな。ヨウのこと。

憎いねぇ、ヨウの奴も。
周囲の男子女子からキャーキャーワイワイ言われている上に、こうやって身近な奴からも想われているなんて。

あーあ、俺もイケメンに生まれたかったな。

「違いますからね!」

全力で否定してくるココロに、俺はハイハイと聞き流して一笑。


「ココロだってさ、十分に役に立っているじゃん。俺、ココロがいつも皆に気配りしてるの知ってるぜ? 誰かが怪我したら誰よりも早く動くしさ。そういったところ、ヨウも助かってるんじゃないかな。ほら、あいつ、ああ見えて責任感強いし……どっかで背負い過ぎるところあるから。ココロはそういった意味で、ヨウや他の仲間達を助けてるんだと思うぜ? ココロはチームに必要な存在だって」


俺の言葉にココロは呆気に取られていた。

でもすぐに表情を崩す。

「ケイさんもですよ」

ポツポツ言葉を紡いできた。


「私、不良じゃないからこそ分かるんです。ケイさんの苦労。不良じゃないと、結構周りからとやかく言われますよね。それでもケイさん、屈することないから……私、ヨウさんにも憧れていますけど、ケイさんにも憧れているんですよ。私、ケイさんのようにもなりたいです」


向けられる微笑に俺は面食らった。

あ、あ、あれ……ちょっと……これは……不意打ちなんじゃ。不意打ちっていうか、なんだこれ。妙に心拍数が上がっている。上がっちゃっているぞ。あっれー? どうしたよ、俺。

顔が熱くなる俺と同じように、ココロの方も言った言葉に羞恥を噛み締めているのか頬を紅潮させている。

俺達の間に沈黙が流れた。

ぎこちなく視線を合わせると、これまた顔が熱くなるという……どうした。マジでどうしたよ俺。てか、この沈黙、どうにかしないと!

「な、なあ」

「あ、あの」

かぶっちまったしさ!
なんだ、このタイミングの良さ! お互いに地味への親近感を覚えてるせいか、なんかもう、俺たち、息合い過ぎじゃね?! 気まずさが増すって!

「え、何? 先にいいよ。俺、大したことじゃ」

「わ、私の方こそ! ……ケイさん、お先に……」

嗚呼、ほらまた、こうやって譲り合いが始まっちまうし! 気まずいし!

視線を合わせては外し、俺とココロはどうやってこの空気を打破するか考えた。早く打破しないと心臓が壊れちまいそう。



「ココロー。ちょっとコンビニに付き……何しているんだアンタ等」



俺とココロは見事に硬直した。

ぎこちなーく視線を投げれば、そこにはキョトンとした顔で俺等の様子を見ている響子さんの姿。

やっばっ、この空気はやっばっ! ココロはヨウが好きなのに、こういう空気を作ってたら誤解されね? 絶対されね?

あたふたと俺は大袈裟に笑い、「じゃあ」ココロに挨拶してヨウのところに逃げることにした。

だけどココロに呼ばれ、つい立ち止まって振り返る。彼女は頬を紅潮させたまま、優しい微笑を向けてくれた。

「ケイさん、ありがとうございました。私……ケイを応援していますから」

「お、おう。こっちこそサンキュな!」

軽く手をあげて今度こそヨウ達のところへ逃げる。

やばいやばいやばい、多分一時的な感情なんだろうけど、これはちょっと不味いぞ。うん、忘れよう。

まずココロはヨウのことが好きだしな。うん。

でも何だ、このモヤモヤ。
ココロってさ。俺と同じ普通だけど結構、健気で可愛いところあるよな。名前のとおり心優しいし。

「あー駄目だ駄目だ!」

俺は煩悩を振り切るように走った。
何となく分かっていたその気持ち。


どうしても認めたくなかったんだ。


だって認めたら、それこそチームの輪が乱れちまうって。今は舎弟問題をどうするかを考えよう。何もなかったことにしよう。



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