07-07
「なんでモトはそんなに尻込みするんだ? 俺っちなら、努力してでも舎弟の座を狙うのに。モト、ワケ分かんねぇって」
「だ、だからオレは!」
「――分かった、モトにその気がないなら、俺っちが立候補する。俺っち、ヨウさんの舎弟になりたいっス!」
また突拍子もない宣言だな!
キヨタのハチャメチャ宣言に俺達三人揃って絶句。
「候補ってテメェ」ヨウはキヨタを指差し、「あははっ……」俺は空笑い、「キヨタ……」モトは親友の傍若無人っぷりに頭を抱えていた。
こんなことになるなら連れて来るんじゃなかったと嘆いている。
うん、今回だけはお前に同情してやるよ、モト。
頑張って認めてもらえるよう努力すると意気込むキヨタは、俺の前に立ってビシッと指差してきた。
「てことでケイさん! 俺っち、貴方に宣戦布告するっス! 舌洗っておいて下さいっス!」
舌じゃなくて首な。首。
心中で丁寧に訂正してやりながら、表の俺は小さく溜息。なんでこーなっちまうんだ。
だいったい元を辿れば、ヨウが皆の気持ちを考えないで俺を成り行き舎弟にしちまったのが原因だよな。
俺って完全なとばっちりだよな。あーあ、田山圭太ってなんて不運な男なんだろう。
「おいおいおい」
ヨウは勘弁してくれよ、と荒っぽく頭部を掻いた。
ただでさえ日賀野チームに宣戦布告したばっかりなのに内輪で揉め事が起こるなんて。
そんな愚痴を零しているヨウに声を掛けてきたのは、それまで傍観していた響子さん。それにうたた寝していた筈のシズも立っていた。俺等の騒動にやや呆れている様子。
「ヨウ……これはお前の責任だ。チームに支障が出ないよう、お前が解決しろ」
「なんで俺の責任ッ、イッデ!」
「アンタが考えもせず舎弟を作ったからこうなったんだろ」
響子さんはヨウの脇腹に肘を軽く入れる。
「加減しろって」
ヨウは軽く小突かれた脇腹を擦っていたけど、響子さんはどこ吹く風で煙草をふかしていた。
「手前の立場も考えず、面白がってケイを舎弟にしちまったから、こんなことが起きるんだろ。ったく、手前のことだからって口は出さなかったけどよ。うち等不良の間での“舎弟”がどういう意味を指すか、ヨウ、分かってンだろ? アンタの“舎弟”になった奴は、本人達がそう思って無くても舎弟の後継者って認識される。
ヨウ、現時点でのアンタの後継者は必然的にケイになっちまっているんだよ。アンタ等がどう思っているか、うちには知るよしもねぇけど、少なくとも周囲の不良達はケイがヨウの後継人として見ている。
不良ならまだしも、まずケイのナリがこれだ。
なんで地味で喧嘩もできなさそうな奴が……度々噂も立ってンだよ。アンタがこういう事態を頭に入れてねぇからこうなる。
特にアンタはここらじゃ有名過ぎる不良なんだ。いずれこんなことが起きるんじゃないかって思ってたけど……やっぱきやがったな。
ヨウ、この際だから決めちまえ。アンタの相応しい舎弟ってヤツを。
チームのリーダーでもあるアンタのその目で見極めて、相応しい舎弟を決めるんだ。しかも周りが納得するような意見を添えてな。うち等は誰でもいいけど、納得しない奴等だって現にいるわけだ。今までどおりケイを舎弟にするにしても、新たにモトもしくはキヨタを舎弟にするにしても、納得する答えがいる。
少なくとも当事者のケイとモトやキヨタが納得するような答えを出せ。
ケイなんざ、あんたの思い付きのとばっちりを受けてるようなもんだ。少しは使わない脳みそを動かせ。分かったな、ヨウ」
手厳しい響子さんの言葉にヨウはぐうの音も出ないみたいだった。
シズも同意見のようで、「チームの輪を乱すことは許さない」冷然と言い放つ。普段の眠たそうな顔は何処へやら。副リーダーらしい威厳がシズを取り巻いていた。
「お前の決定でチームの輪が乱れる可能性がある……」
自分達の目的はあくまでヤマト達を潰すこと。チームの輪が乱れては元も子もない。チームをより纏めるためにも、慎重に舎弟は決めて欲しい。
何よりお前はリーダー、これからは自覚を持って行動をしてもらわなければ此方が困る。
どちらにせよキヨタは、舎弟にならずともチームにはいて欲しい存在。合気道を使える点は大きな利益だからな。大きな戦闘力になる。
モトの一番のダチならば、ヤマトの回し者だと警戒する必要性も無い。
「入ってくれるな?」
シズの問い掛けに、「はいっス!」キヨタは勿論だって大きく頷いた。
リーダーと違って、副リーダーはこういったチームへの考え方は本当に上手いよな。尊敬するぜ、ほんと。
はぁあぁ、なんかドえらいことになってきたな。
どうしよう俺。んでもってどうするよヨウ。
俺等、色んな意味で舎兄弟ピンチだぞ。
まさかこんなところで終わりを迎えようとは思いもしなかったぞ。
俺はヨウに視線を向ける。
重々しく苦虫を噛み潰すような顔を作っているヨウに、俺は思わず苦笑い。後で舎兄弟二人っきりで話す必要がありそうだな。
「ケイちゃーん、リストラされたら僕ちゃーんの舎弟になればいいよーん! 僕ちゃーんの後継者にしてあげるってんばてんば」
会話に入って来たワタルさんは、ニヤニヤ笑いながら俺の右肩に手を置いてきた(左肩だったら叫んでいるところだった!)。
ワタルさんの舎弟……それだけはご遠慮させてもらいたい切に。
日賀野の舎弟の次に遠慮させてもらいたい。
だってワタルさん、ヨウよりも人使いが荒そう。んでもってワタルさんの二重人格部分には泣きそう。マジで。
まーだヨウの思い付き我が儘に付き合ってやった方がマシだって。
「キヨタちゃーんだっけ? ケイちゃーんは強豪だよよよん。なにせ、ヤマトちゃーんに舎弟勧誘されているんだからっきょ! 何より、ケイちゃーんはヨウちゃーんの足。腕っ節だけで舎弟の座を奪えるかなっぱ?」
「ヤマトって、敵側の頭っスよね? ええええっ、ケイさんっ、日賀野大和に狙われているんっすか! 実は陰の実力者なんっスか!」
「そーそー。仮にケイちゃんがヨウちゃーんの舎弟をリストラされても、新たに身内の誰かの舎弟としておかないと、ヤマトちゃーんに狙われるぽ」
「マジっスかァアアアア!」
キヨタは自分の絶叫した後、俄然燃えてきたと闘争心を滾らせる。
一方、俺はガックリと項垂れていた。
ワタルさん、そうやってまた余計な知識をキヨタに植え付ける。
「楽しんでいますね」
俺が喧嘩できない、チャリと習字だけの男だって知ってるくせに。ワタルさんに視線を投げやる。
「正直に言っただけぴょーん」
ウィンクしてくるワタルさんはへらへら笑い、溜息をついているヨウの肩を叩いた。
「ケイちゃーんリストラしたら、僕ちんにちょーだいね。移動が楽になるから!」
「チャリの後ろは俺の特等席だっつーの」
俺はあんた等の移動手段かよ!
ヨウの足だと自称しているだけに、そう思われてもしゃーないけど、だからって毎度まいど不良をチャリの後ろに乗せるのも苦労するんだぜ?
重いし、運転し難いし、速度も落ちるし。
なーんて意見できたらスッキリできるんだろうなぁ。
うふふっ、不良のチームに入っても田山圭太、内心では超不良が恐い今日この頃です。俺も不良になっちまおうかなぁ!
取り敢えず舐められない程度に髪染めてみっか! ……仮にそうしたら、無難に茶色になるとは思うけどさ。
うーん、それよりもこんな出だしでこのチーム、大丈夫かなぁ。日賀野達、只でさえ曲者揃いなのに。
俺は小さく小さく溜息を零した。
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