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07-03



持ち前の染めた銀髪を風に揺らしながら、ハジメは倉庫に背を預けて地べたに座って片膝を立てている。どこを見るわけでもなくただ宙を見つめているようだった。

俺はハジメが気掛かりで仕方が無かった。

ハジメ……不良の落ちこぼれって自分で言ってたしな。

あんま喧嘩できないと言っていたし、もしかしてチームの中じゃ足手纏いの類に入っていると思っているのかもしれない。

俺も日賀野にフルボッコにされた身だし、喧嘩できないし、チームの中じゃ足手纏いの類に入っていると分かっているから、なんとなくハジメの口にした『不良の落ちこぼれ』という言葉の重みが分かる。

何気ない気持ちでハジメに歩み寄った。

気配に気付いたハジメは俺の方に視線を投げてくる。

「ケイか」

柔らかな眼差しはちっとも不良らしくない。
俺は片手を上げてハジメの隣に座った。

隣から漂ってくるブルガリブラックという香水が鼻腔を擽る。 

「こっちに避難させてくれな。タコ沢が俺に喧嘩吹っ掛けてきそうできそうで。マジねぇって、タコ沢をチームに入れるっての」

ヨウに向かって吠えているタコ沢を指差して一つ溜息。

笑声を漏らすハジメはタコ沢は戦力になるし大丈夫だよ、と俺に励ましっぽい言葉を送ってきてくれた。

いやいやいやその前にさ。

「俺が戦闘不能になりそうだよ。あいつは直ぐ、俺やヨウに喧嘩吹っ掛けるからさ。ヨウはともかく、俺は喧嘩なんて無理だっつーの」

「ははっ。その前にヨウがタコ沢を捻じ伏せそうだから。あ、ほら。今もヤラれてる」

果敢にもヨウに突っ掛かっていくタコ沢は、糸も簡単に攻撃を避けられて背中に蹴りを入れられているところだった。
 
あちゃー、痛そう。よせばいいのにタコ沢も懲りないな。

あいつ根性だけは人三倍あるから直ぐに起き上がってまたヨウに……嗚呼、今鳩尾にストレートが入った。
見ているだけで鳩尾が。それでもまだタコ沢は向かっていくか。なんてタフなんだ。俺にもあのタフと根性を分けて欲しいぜ。

「あれじゃあ、三分で片が付きそうだね。タコ沢は今日も惨敗か」

俺と話す時のハジメはいたって普通だった。陰りのカケラも見せない。

やっぱりヨウの言うように俺達に悩みを隠したがっているんだな。触れて欲しくないことなのかもしれない。俺もハジメの悩みに触れるつもりで隣に座ったわけじゃないんだけどさ。

ただハジメと話したかった。それだけだから。
誰かと話したら気が紛れるしな。
俺と話すことで気を紛らわしてくれたら良いと思う。

「あ、モトがいないね」

今気付いたとばかりにハジメが声を上げる。

そういえば……俺は周囲を見回した。

確かにヨウ信者のモトが此処にいない。いつもは煩いくらいヨウに纏わり付いたり、俺に突っ掛かってきたり、どっかで子犬のようにキャンキャン吠えているのに。

まだ来ていないんだろうな。

倉庫裏からモトの通っている中学まで結構距離があるらしいし、もうそろそろしたら来るだろう。

あいつヨウ信者もいいところだから、きっとタコ沢との喧嘩を見て、


「ヨウさんさっすがァアアア!」

「カァアアアアックイィイイっス!」


そうそう、こんな風にカッコイイ……って……ん? 今の声は一体。


何故か二つ、黄色い悲鳴が聞こえたような。聞こえなかったような。ヤーな予感がするような無いような。

俺はハジメと一緒に声のする方へと視線を投げる。

そこには倉庫裏から表に続く道、そして爛々と目を輝かせているヨウ信者のモト。んでもってモトと同じ制服を着た不良さんらしき人物が一匹。

髪の色がこれまた白っていうド派手っぷり。

年取って老化していったら自然に髪も白になっていくんだから、わっざわざ若いうちから白に染めなくてもなぁ。


……また不良が増えたよ。


しかも見るからにヨウ信者っぽいんだけど。なんか面倒なことになりそうなんだけど。



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