繋がり重視
日賀野達への宣戦布告を契機に、グループから打倒日賀野達を潰しましょうチーム結成へ。
なんだか事がドデカイことになりつつあるけど(そして俺は舎弟から完全に抜け出せなくなった!)、宣戦布告をした夜から一週間くらい時間が経った。
その間、大きな出来事や事件はなかったんだけど、日賀野達の情報や動きがまったく掴めなくて困っていた。
もっぱら情報収集は弥生が担当しているんだけどさ。
やっぱひとりじゃ限度があって、しかも動きがなかなか掴めないと苦言したんだ。
こりゃ不味いなー……そう俺達は思い始めた。
だってさ。相手を潰すなら、まず相手の動きをよく知ることだろ? 勝つ鉄則のうちの一つにも入ると思うんだけど、マジ、出鼻を挫かれた気分。いきなり壁にぶち当たっちまったよ。
毎度昼休み、サボリの時間、はたまた誰もいない公園に集まっては話し合いに当ててるんだけど、まったく解決の糸口が見えねぇんだな。これが。
どうしよう……途方に暮れていた時に救世主のごとく一人の人物が日賀野達の動きを教えてくれた。
それは昼休み、俺達がいつものように体育館裏で駄弁っていた時のこと。
日賀野達の情報や動きが掴めなくて、うんぬんと話し合っていた時に体育館裏に利二がやって来た。
利二からしちゃ体育館裏は不良達の巣窟になっているから足を運びたくなかったんだろうけど、担任の前橋が俺を探していたと一報を伝えにきてくれたんだ。
その際、俺達の話を聞いてしまったらしく利二がポロッと一言。
「日賀野大和達は一昨日ほど前に、たむろしている場所をバーから別の場所に移したらしいですね」
利二は俺達が知っているものとして話を吹っ掛けたみたいだけど、俺達からしてみりゃ初耳。誰もが、なんで知っているんだとばかりに目を皿にした。
その反応に利二の方が驚いていた。
「もしかして誤報なのか……」
困ったように頬を掻き、この状況をどうにかして欲しいと俺に救いの目を向けてくる。
応えるために俺は利二に何処で手に入れた情報なんだ? とクエッション。
「バイト先のコンビニは不良の出入りが頻繁だからな。そういう話をよく耳にするんだが」
「そういや利二って不良の情報をよく仕入れてくるよな」
「なーるへそ。んじゃ、五木ちゃーんにも情報を提供してもらおっか? どんなことでもいいから、ヤマトちゃーん達のことを耳にしたら僕ちゃーん達に教えてっちょ」
我ながら名案だとばかりにワタルさんは指を鳴らす。ヨウ達は賛成だと頷いたけど、俺的には大反対だった。
情報提供イコール、俺達と繋がりを持つ。
もしかしたらまた標的になるかもしれない。怪我させるかもしれない。情報を俺達に流していることが日賀野達にバレれば、利二は……。
だけど事情を知った利二は俺の気持ちを裏切るように、「そんなことでいいなら」と言葉を返した。
マジもう、俺の気も知らないでさ。
そりゃ不良にお断りするなんて出来ないだろうけど、少しは躊躇えって。
そしたらどうにか断る方向に持っていってやれたのに!
俺は担任の待つ職員室に行く際、ついて来てくれる利二に「無理しなくても良いからな」と言葉を掛けた。
仮に情報を知っていても無理に俺達に流さなくていい。立場が危なくなるのは利二なんだから。
すると利二は何を言っているんだとばかりに笑った。
「聞いた情報を提供するだけだ。田山は心配性だな」
「心配性のお前にだけは言われたくない。ってか、いや、マジにさ。俺達に手を貸してることになるんだぞ。日賀野達にバレでもしたら」
「自分は荒川達に手を貸しているわけじゃない。お前に手を貸しているだけだ」
利二は肩を竦めて笑声を漏らし、俺に微笑を向けてきた。
「言っただろ、お前が不良になったとしても変わらず接してやるって。お前が舎弟を白紙にできなくなったとしても、日賀野達と対立するチームに属すことになったとしても、お前はお前だ。それくらいのカッコ付け、許されるだろ? ……って、おい、田山」
「ヂッグショウ。お前、ヒキョーだぞ! んな、友情見せつけやがっで!」
俺は感動のあまりに出た洟をティッシュでかむ。
も、言葉にアッツイ友情を感じたね。地味が築き上げる友情ってマジ素晴らしいと思った。
グズグズと洟をかんでたらティッシュが無くなる。
「まだいるか?」
呆れたように利二が俺にポケットティッシュを突き出してきた。受け取った俺はそれでまた洟をかむ。
「不良にまみれた生活の中に見出した地味友情……俺、どんだけ普通が素晴らしいのか今ので分かったぞ。利二」
「そうだな……お前の生活環境には同情するものがある。しかしお前の場合は自ら危険に足を突っ込む悪い癖があるぞ」
……ご尤もデス。
確かに自分から危険に足を突っ込んでいますね、俺。
だから俺、舎弟の件を白紙にすることができず、寧ろヨウに「俺はお前の舎弟だ!」言い切ったもんな。
誤魔化すように俺は頭を掻いて目を泳がせる。利二は微苦笑を漏らした。
「そんなお前だから、尚更手を貸したくなるんだろうな」
「利二……」
「不良グループもいいが、少しは元いるべき地味グループにも顔を出して欲しい。お前がいないおかげで、今の面子にはノリツッコミ役がいないんだ。疲れたら遠慮せず、こっちに少しは顔を出せ。少しは戻って来い」
利二は目尻を和らげて俺に言った。
居場所っつーのかな、そういうのをさり気なく利二は提供してくれる。嬉しさを隠すように俺は頭の後ろで手を組みながら笑った。
「利二、俺の舎弟になっちまうか? たまには不良とつるんでみるのも悪くないぞ? みんなに紹介してやるって」
「お前の舎弟は別にいいが、不良とつるむのはごめんだ。お前のようになりたくはない」
「ひっでぇーの」
「誰だってそう思う。……田山、左肩はどうだ? 全治約三週間なんだろ?」
「んー、まあな。どうにか大丈夫だ。自転車も普通に運転はできるしな。二人乗りもできなくはないし」
利二の歩調が早くなった。俺の前を歩く利二は足を止めて振り返って来る。
「何かあったら連絡しろ。無理だけはするな」
純粋に心配してくれるダチの言葉がこんなに嬉しいなんてな。足を止めて俺は微笑した。
「ああ、サンキュ。利二」
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