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06-16



時刻は一時を過ぎた。


まだ起きておいてもいいけど明日も学校があるし、何かと布団の中にいた方がいいと判断。

しかもシズに関してはこっくりこっくり夢路を歩き始めた始末。

俺はベッド、二人は敷布団に潜って電気を消す。

夢路を歩いていたシズは寝ちまったみたいでスヤスヤと寝息が聞こえる。

寝るのが趣味なだけあって寝付き良いよな。枕がかわっても寝られるタイプだろう。

対照的に俺は疲労が溜まっている筈なのに、頭が冴えていた。

それはヨウも同じみたいで頭の後ろで腕を組んでぼんやり天井を見つめている。

ヨウとベッドが近いこともあって、「眠れないか?」俺はそっと舎兄に話し掛ける。「まあな」ヨウは曖昧に笑声を漏らした。


「宣戦布告しちまったなぁ……って、改めて考えてた。手前から言ったっつーのにな」


びっくりするほど静か、そして消えそうな、ヨウの声。俺は聞く。


「もしかして後悔しているのか?」


間を置いてヨウは言葉を返した。


「後悔なんざねぇ。けど……どっかで自信がねぇ自分がいる。漠然とした不安っつーのかなぁ。そういうのが片隅にあるんだ」


思わず瞠目。

初めてヨウの口から弱音を聞いた。

いつも喧嘩に対しても、何に対しても、自信で満ち溢れているのに。

ヨウは何に対して不安を抱いているんだろう。

宣戦布告したことで仲間が傷付くんじゃないかと考えているのか、離れていくんじゃないかと考えているのか、それとも先の読めない未来に畏怖しているのか。

「俺は喧嘩はできても、ヤマトと違って後先のことなんざ考えねぇから。時々……、どうしようもねぇくれぇ自己嫌悪する」

どういう気持ちで俺に吐露してくれているんだろう、ヨウは。

ゆっくりと瞬きをした後、負傷している左肩を気遣いながらうつ伏せになって頬杖。ヨウを見下ろして視線を合わせた。

「なんとなく今のヨウは、全部を抱え込もうとしてる気がする。全部全部ぜーんぶさ」

ヨウが小さく目を見開いてきた。
俺は肩を竦める。「なんとなくだよ」しっかりと言葉を付け加えた。

「ヨウって人三倍仲間意識や責任感が強いからさ。仲間も守りたいし傷付けたくもないし、だけど日賀野達にも勝ちたいし、寧ろ負けられないし。そんな重たい気持ちをいっぺんに背負っている。俺にはそんな気がする」

「ケイ……」

「どっかでヨウは気遣いし過ぎているんだ。仲間に対してさ。余計なところまで気を回しているっていうか、ちょっと考え過ぎっつーか」

でもさ、それがヨウの良いとこでもあるんだと思うよ。気遣いが悪いとは言わない。

ただ極端に“過ぎる”んだよ。ヨウは律儀で義理堅いから“過ぎる”面に気付かないかもしれないけど、俺からしてみればちょっと背負い過ぎている。

ヨウが何に対して不安になっているのか、上手く言えないけど、きっと背負い過ぎているから漠然とした不安がでてくるんだと思うんだ。

自己嫌悪もそう。
ヨウは“過ぎる”ところがある。

ある意味、ヨウのそういうところがちょっと心配だったりするかも。

笑声交じりにヨウに率直な意見を言えば、限りなく穏やかな舎兄の顔がそこにあった。

「かもしれねえなぁ」

曖昧に返事を返して、ヨウは大きく息を吐いた。

「俺にとって今つるんでいる奴等は、どいつもこいつも気の置けない奴等バッカ。失いたくねぇってのが本音だ。だから……無自覚にあれこれ考えちまうんだろうな」

「そりゃな。あのメンバーは気の良い奴等ばっかだから」

「なんで他人事のように言ってるんだよ」

ヨウは可笑しそうに笑った。


「テメェもだよ、ケイ」


その言葉と笑みに嘘偽りはなかった。

瞠目している俺から目を逸らしてヨウは天井に視線を向ける。顔は変わらず穏やかだった。

「今日は本当に嬉しかった」

改めて、ヨウは泊まりの礼を紡ぐんでくる。

「泊まりに来いって言ってくれたことも、こうやって世話になったことも、また泊まりに来いって言ってくれたことも。スゲェ嬉しかった。まさか……ここまでテメェと親しくなるなんてな。ケイを舎弟にしたあの日は想像も予想もしなかった」

俺だって想像も予想もしなかった。
不良に対して泊まりに来いとか言ったり、家に連れて来て家族に紹介したり、ゲームしたり駄弁ったりするなんて。

舎弟になったあの日は絶対に“パシリ生活”が始まると思っていたのに。



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あきゅろす。
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